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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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宗教的なもの

 その変化は入口を進んですぐに気がついた。

 光が届かないはずの建物内が明るく照らされていることに。

 違和感を覚えながらも周囲を注視してみると、内壁や天井がうっすらと輝きを放っているようだ。


 これはそういった素材、ということなんだろうか。

 地球上では存在しないと思えるような材質で造られているのかもしれない。

 

 いくら地上と同じように水中で動けるとしても、さすがに視界まではどうにもできないから実際には戻ることも視野に入れていたが、その必要はなさそうでひとまず安心できた。


 ……どうやらここは古代の建造物、それも宗教的な意味合いを深く持つことだけは確かだと俺にも分かった。


 初期キリスト教建築物を彷彿とさせる古びた教会。

 それはまるでラヴェンナにある宗教的建造物を見ているようだった。

 所々は別物に思えるが、古代の遺跡にしては保存状態が非常に良さそうだ。


「……宗教的な建物であることは間違いなさそうだな」

「そうなの?

 あたしにはよくわかんないけど」

「ほら、天井にモザイク画が描かれているだろう?

 残念ながらこれらを見ても当時の状況や何を崇拝していたのかは分からないが、これは宗教的建造物特有のものなんだ」

「モザイク画、ですか?」

「石や陶磁器、ガラスや貝殻、木などの欠片を組み合わせて絵にする技法だな。

 近くで見るとばらばらに見えても、遠くからはひとつの絵画に見えるんだよ」

「ふしぎだね。

 あのえはなぁに、ぱーぱ」


 天井を指して笑顔で訊ねるフラヴィに頬が緩む。

 ようやく元気を取り戻してくれたようだ。


 もっとも、あまり考えないようにしているだけかもしれないから、しばらくは気をつけないといけないが。


「……あれは何を意味しているんだろうな。

 恐らく何か宗教的なものなんだろうが、俺にもよく分からないな」


 幾何学模様の円を中心として下に小さな三角が並ぶように描かれた絵は、専門家でもない俺には正解を出すことはできないが、おおよその推察くらいなら出せた。


「……丸で大きく描かれた円は"神"を表したもので、下にある小さな三角は"人"、つまり神を崇拝する者たちを表現しているんだろうか……。

 元々こういった場所にある絵には意味を持たせることがほとんどだし、中でもここは宗教的なものであることは間違いなさそうだな」


 とはいえ、後世に伝えるためのものでもなさそうな気がする。

 そうであればもっとはっきりと理解できるように描かれるはずだから、ここにある絵から察するとかなり閉鎖的な連中が人知れずに造った教会に思えてならない。


 ……まるで隠れながら、何か人ではないものを崇拝するように。



 壁面に指をさし、4人の視線を向けさせる。

 そこに彫られたレリーフには、美しい女性の上半身が描かれていた。

 古代のドレスのような服飾から連想するに、女神を表しているのかもしれない。


「恐らくはこれがこの世界の女神ステファニアと呼ばれている存在か、神殿にも思えるような教会を造った者達が崇拝していた存在、もしくは"人ならざるものが神となった姿"なのかもしれないな」


 それを現実的に叶えるのかはまた別の話だが、少なくともこのレリーフはそれを思わせるような期待感を持たせるものだった。


 可能性がいちばん高いのは、この教会が崇拝していた存在だな。


 ……となれば、この先に進めば本当にいるのかもしれない。

 それを疑いつつある俺には、そう思えてならなかった。


 箱や壷などを含む器を開けさせようとした存在が。

 それこそが人ならざるものだと思わせる、"神を僭称(せんしょう)するもの"が。

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