頼もしい味方
だが、色々と片付けないといけないことが多すぎる。
まずは水中に長時間潜れる方法を探さないといけないな。
しかし人間である以上、水の中は踏み込めない領域となっている。
さてどうするかと考えながら子供たちに視線を向けると、ひとりだけ何かを言いたそうな子が視界に入った。
あれは泳ぎたいんじゃなく、役に立ちたいといった表情か。
さすがにそれを容認できるわけもなく、何かを言いたそうな子へ話した。
「だめだよ、フラヴィ。
何がいるかも分からない場所を、ひとりで泳がせるわけにはいかない。
フラヴィを危険な目に遭わせたくないんだ。
でも、ありがとう。
気持ちだけ、受け取っておくよ」
「……うん」
小さく頷くフラヴィだが、ここ最近何かを考え続けていることは理解していた。
それもすべて、俺の役に立ちたいと強く願っているからなのも分かっている。
最近は寝つきも悪く、俺の胸に張り付きながら色々と考えているみたいだし、そろそろ本格的に休息をしなければ心労で倒れてしまうかもしれない。
この子はまだまだ子供だ。
ブランシェやエルルとは違い、成長も落ち着きを見せている。
俺としては役に立とうとするよりも、子供らしくゆっくりと育って欲しい。
もどかしい気持ちになっているのも分かってるつもりだが、それでも危険な目に遭って欲しくないと思うことは、俺のわがままなんだろうか……。
さてどうするかと考えるまでもなく、突き当りまで来てしまった。
やはり他の可能性を模索するしかないだろうな。
そんなことを考えていると、水龍からあることを提案された。
≪問題ない。
一時的ではあるが、我の能力があれば湖底探索は可能だろう≫
「……水中を探索できる加護を与える水龍とか、一体どんな種族なんだよ……」
≪それについては答えられる情報を持たぬ、と言った方が正しいな。
我は水を司る龍種が1体にすぎない。
故に水龍を名乗っているが、それ以上でも以下でもない≫
「まぁ、そうだろうな。
明確な役割ってのを与えられてなければ、俺たちと然程変わらないんだろうし」
≪ふむ、妙なことを言う。
明確な役割を与えられたものなどいるのか?≫
「さあ、どうだろうな。
カミサマってのが存在するなら、その問いに答えてくれるんじゃないか?」
思わずちらりとエルルを見るが、あわあわと彼女は取り乱しながら答えた。
「えぇ!?
あ、あたし、何も知らないよ!?」
「……だと思ったよ」
≪む?≫
「いや、なんでもない」
エルルについては説明しても納得させるだけの言葉が出てこない。
今は惑わすような話をするべきじゃないだろうな。
とはいえ、貴重な情報だけじゃなく、移動手段まで手に入れたと言ってもいい。
あとは実行に移すかどうかになるんだが、みんなの気持ちも同じみたいだ。
「まぁ、このまま素通りはできないよな」
≪……いいのか?
何が住まうかも分からない場所へ向かうことになるぞ?
ああいった場所には厄介な魔物が住処にする場合もある。
さすがに我は外で待つしかない以上、手助けもできないが……≫
彼の言葉を純粋に嬉しく思う。
龍種ってのは、人が伝え聞いていた話とはまったく違う種族のようだ。
「心配してくれるんだな。
だが必要以上に無理をするつもりはない。
一応、水中でも戦う術は心得ているが、危険だと判断したらすぐに戻る」
≪……ふむ。
であれば力を貸すが……≫
何かを言いたそうに言葉を詰まらせる。
その気持ちはとてもありがたいが、そう悠長にしていることもできない。
「……勝手なことを言うが、早速向かってもらえるか?
本当にそんなものがあるのか確かめないといけないし、本音を言えば時間が惜しい事情が俺たちにはあるんだ」
≪わかった。
では船ごと持ち上げて運ぶ。
振り落とされぬよう気をつけるといい≫
どうやらこの水龍は、本当にいいやつみたいだな。
彼自身、このまま済ませたくはないと本心から思っているようだ。
頼もしい味方ではあるが、問題は遺跡の中か。
……危険なことにならなければいいんだが……。




