簡単な話だ
重々しい沈黙が続く。
解決法が俺には見つからない。
そもそも時間が限られている今現在で、俺にできることなんてあるんだろうか。
だがこのままでは、俺が不安に思っている未来が現実となってしまう。
そうならない可能性も残されているとは思うが、恐らくは奇跡のような確率だ。
そんな希望を持てるような相手ではない以上、解決策を見出す必要がある。
……いや、なくはない。
解決できる方法はいくつか思いつく。
しかしこれはどれも取りたくない、もしくは取れない手段だと言える。
これだけ人のことを想える水龍も同じことを考えているはずだ。
だが、その方法を選べず、言葉にすらできずにいることは想像に難くない。
そんなやり方を彼が望むわけもなく、実行なんてとてもできないだろう。
できるのならば、とっくにやっていたはずだ。
言葉にすればひどく簡単な話だ。
"暴力"で連中を潰せばいい。
それだけで解決できる。
言い訳を聞く暇を与えないほど一瞬のうちに。
後悔の言葉を連中の口から出るよりも前に。
すべてを蹂躙し、重々しい気配を放ちながら話し、憲兵詰所に放り込む。
もう二度と命を粗末に扱わないように約束させれば、それで終わる。
殴り、蹴り、投げ飛ばし、威圧で恐怖させ、脅し、誓いを強制させる。
悪党どもに情けなどいらない。
そんな必要もない。
だがそんなこと、できるわけがない。
俺自身したくもないし、何よりも子供たちの前で非道なマネはできない。
相手が悪党だろうと、こちらも同じように対応できないし、してはいけない。
なら、どうする。
何度考えても結局はここに辿り着く。
とても最善とは思えない答えに行き着いてしまう。
まるでその方法しかないんだと、俺自身が感じ取っているように。
「……でも、トーヤなら――」
そう言いかけて口を噤むエルル。
言いたい気持ちは痛いほど分かる。
その可能性も俺は考慮していた。
でもそれは難しいと悟ったんだろう。
それを思わせる表情をこの子はしていた。
≪……妙案でも思いついたのか、娘よ≫
「え? あー……えっと……」
ばつが悪そうに視線を逸らしながら頬をかくエルルの代わりに、俺が答えた。
使用できないものである以上、効果を待つしかないその能力についてを。
「俺は"特殊成長"っていうスキルを持ってる。
これは魔物と定義される存在に独自の進化をさせる効果を持つもので、平たく言えば人の姿になることができるみたいだ。
その真価はまだ理解できていないが、エルルが言いかけたのはそれだ」
≪……ふむ。
条件は様々ありそうだが、我もそなたと共にすれば人の姿を取れるだろうか≫
「いや、それには俺の仲間として共に旅をしなければ難しいだろう。
ここにいるフラヴィとブランシェは人の姿をしているが、そうなるまではそれなりの時間がかかっているから近日中には難しいと思う」
≪不思議な気配を感じていたが、魔物が人の姿を取っていたのか≫
その言葉に疑問を持った。
それはまるで、最初からこの子たちが特殊だと知っていたみたいに聞こえる。
まぁ、彼は長命な龍種なんだから、それくらいはできても不思議じゃないが。




