単純な話じゃない
「そう言われると思ってたし、その理由も見当がつくけど、一応聞いても?」
俺の言葉に深くため息をつきながらディートリヒは答えた。
「何が孵るか分からない卵だからだ。
ゴブリンだってありうるし、ドラゴンの可能性だってある」
「それに、この卵は"隷属の刻印"がされてないみたいですね。
言うこと聞くかも分からないですし、僕もお薦めはできません……」
彼もそこまで詳しくないが、諦めきれずに調べていた時期があるらしい。
魔物の卵には、隷属の刻印と呼ばれた強力な呪術加工が施される。
これは産まれてくる魔物を、時には強制的に使役するために必要なものだ。
すべてが聞き分けのいい魔物だとは限らず、命令を聞かないことも多い。
魔物次第では持ち主を食い殺そうとすることだって少なくはないそうだ。
そういった場合に必要となるのが、魔法付呪のひとつと言われるこの刻印だ。
これは奴隷に落ちた賊に刻む"奴隷紋"と同じ系譜の魔法だと彼は話した。
なんとも嫌な話ではあるが、言いたいことは理解できる。
そうでもなければ魔物や盗賊を扱いきれない場合がある、ということだろう。
冷静に考えれば、魔物を従えることは確かに危険と隣り合わせと言える。
だからといって諦めきれるものではないと思ってしまう俺は、自然と出てきた言葉を彼らに伝えた。
「それでも育ててみるよ。
正直、育てるのが楽しみで仕方ないんだ。
うちじゃペットを飼ったこともなかったし」
冗談交じりで答えたが、やはり呆れながら突っ込まれた。
「ペットって、お前なぁ……。
そんな単純で簡単に答えられるような話じゃないんだぞ?
ゴブリンならまだしも、オーガやオークだったらどうするつもりなんだよ……」
どうやらこの世界に存在する魔物の卵は、哺乳類と思われるものでも卵から産まれてくるらしい。中々興味深いな。
食べるものは人と違うのかを聞いてみたが、どうやら雑食極まりないようだ。
「魔物は基本的に好き嫌いなく何でも食べますよ。
孵ったばかりは柔らかいものを好んで食べるそうですが、それもすぐに硬いものを欲するらしいので、育てるのにそう手間はかかるものでもないと思います。
ですが……」
ライナーは言葉を濁らせ、思わず視線を仲間達に向けてしまう。
その気持ちを察したフランツは俺に訊ねた。
「何が産まれるのかも分からない魔物の卵だからなぁ。
ドラゴンなんか生まれちまったら、お前どうするつもりなんだよ……」
「とりあえず背中に乗って空飛ぶと思うけど?」
俺の答えに一同が深くため息をついた。
いや、誰だってそうしたいと思うんじゃないか?
異世界でドラゴン手に入れたら、一度はしてみたいだろ?
夢じゃないけど、一種の憧れみたいな感情くらい誰だって持つと思うんだが。