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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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対象になりやすい場所

 それから2時間ほど経過した頃だろうか。

 湖面はもちろん、水中にも特に変わった変化は感じなかった。


 しかし、それとは別の気になることを、俺はぽつりと呟いた。


「……本当に海みたいだな……」

「すごいね、トーヤ。

 進む方向には陸地がまったく見えないや。

 海ってこんなに広い感じの場所なの?」

「そうだな。

 この世界の海はまだ見たことがないが、たぶん同じだと思うよ。

 すべて塩水でできているんだ」

「ふらびい、しょっぱくないとこで、およぎたいな」


 笑顔で答えるフラヴィの言葉に、疑問が頭をよぎる。

 ペンギンってのは海に生きる子なんじゃなかっただろうか。

 いや、それは俺の世界に限ってのことかもしれないが、確か淡水よりも海水の方が好むとペンギン好きから聞いたことがある。

 実際にはどうなんだろうな。


 確かめるには湖と海の両方を試してもらわないといけない。

 だが魔物がいるような場所でこの子たちを泳がせるのは難しい。

 フェルザーの湖畔近くでならそれも可能か。


 この一件が済んだら少しゆっくりしたいところではあるが、そうはできない問題を抱えている以上、諦めてもらうしかないのか。


 せめて少しだけでも息抜きをさせてあげたいところだ。

 幸い、俺の気配察知能力も少しずつ上がっている。

 いざとなれば力を使って助けに向かえばいい。

 小1時間くらい、ゆっくり羽を伸ばすか。


「……んー?

 塩水なんかにいて生きられるの、ごしゅじん?」

「そういった環境に適応した生物はたくさんいるんだ。

 俺の世界ではすべての生き物は海から生まれ、独自の進化をして陸地に現れていったとも言われてるんだよ」

「とても不思議なお話ですね。

 私もこの湖の水をいただいて育ってきたわけですから、そこに浮かんでいることがとても感慨深く思えます」

「そうか、リージェにはそういった見方もできるんだな。

 ここの水は他の湖とは違って特に綺麗で澄み渡っているらしい。

 それこそ信仰の対象になりやすい場所なんだろうな」


 まぁ、だからといって連中のしたことを赦せるわけもないが。

 ここはそういった馬鹿をたくさん生み出してきた場所だったのかもしれない。


 そんなことを考えている時だった。



「……湖底に何かいるな」

「え?

 ……あたしには何も感じないよ?」


 エルルは首を傾げながら答えるが、これは違和感に近いものだ。

 まるでそこには何もいないと装っているようにも思えた。


 視認はできないが、集中して気配を探る。


 ……遠いな。

 200メートルほど深く潜っているのか。

 だが、こいつがでかいことだけは間違いない。


 全体像が見えないことに驚きだが、水と一体化しているような気配を感じた。


 クラゲのような半透明の魔物か?

 いや、それなら気配を探ることはできるはず。


 どの道、やることは変わらない、か。


「今から"釣る"から、みんなは取り乱さないようにその場で待機を。

 明確に敵対する相手なら俺が一瞬で切り飛ばすから、安心していい。

 リージェ、子供たちが湖に落ちないように気を配ってほしい」

「わかりました」


 こくりと頷きながら静かに答えるリージェ。

 その瞳には緊張が走る色をしていた。


 俺は剣を抜き、意識を集中して戦闘に備える。


 ……正直なところ、出たとこ勝負は好まない。

 万全に準備をしてから挑みたいが、今回はそうもいかない。


 なるようになるしかない。

 そんな言葉しか出てこなかった。


「……いくぞ。

 全員、衝撃に備えろ」


 みんなの意思を確認して、俺は問題のそれに鋭く気配を放った。


 その反応に気づいたそれは、湖面に向かっているようだな。

 ものすごい速度で浮上してくる。

 同時に並みの魔物などではない気配を鋭く感じた。



 この時の俺はそう思っていた。

 それが何なのか、その可能性を考慮はしていたが、まさかこの目で拝むことになるとは思っていなかった。

 小船を大きく揺らす波を立てる問題の存在に、俺は睨むように視線を向けた。


 まるで天に伸びるかのように長い首を持ち上げる。

 滝のように水が真下に落ちるその光景は、子供たちを驚愕させた。


 こんなもの(・・・・・)がフェルザーに住んでいたとは……。

 剣を握る手に力が入る俺は、思わず小さく言葉にした。


「…………水龍」

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