どうしてなんだろうな
気色悪い村を抜け、フェルザーの湖を目指しながら森を進む。
気まずいと思える空気を背後に感じながらも俺は振り返り、ばつが悪そうに話しかけた。
「……ごめんな、怖かったよな」
「ううん、ぱーぱ、こわいことばでおはなししても、とってもやさしかった」
「……優しかった?
あの時の俺が、か?」
思わぬ言葉が返ってきたことに、俺は目を丸くした。
てっきり怖がられて引かれていたとばかり思っていたが、どうやらそれは俺だけの勘違いだったようだ。
「トーヤ、あんな気持ち悪い人たちにも、すごく優しかった。
あたしなんて、怖くて怖くて仕方がなかったのに、それでもトーヤは強く我慢をしながら怒らずに話をしてた」
「……俺は感情剥き出しで、攻撃とも判断される行動を取ったはずだが……」
「ごしゅじんは、それでもあいつらに手を出さなかった。
きっとアタシにはできない。
アタシは今にも飛びかかりそうな気持ちだったよ……」
歯を食い縛るブランシェは、噛みつこうかとも考えていたらしい。
さすがに俺に怒られると思ったようで、必死に堪えたみたいだ。
「……誰かを護るために、他の誰かを犠牲にする。
そんな恐ろしいことが行われているなんて、悲しいとしか思えません。
あの村の住民は自分達を護るための行動を取ったと思っているようにも感じましたが、私にはとても理解できない感情のようです。
"……人は支え合い、力を合わせて生きていく。
ひとりよりもふたりで、時にはたくさんの人達で。
そうすることで、より良い未来を築いていけるんだ"
私はそうフリートヘルムさんに教えていただきました」
「"より良い未来"、か……。
本当にその通りだと俺も思うよ。
俺たちは世界からすればとても小さくて、何の影響も与えないかもしれない。
でも、それでも、いや、だからこそ俺たちは力を合わせながら生きるんだ。
これまでも、これからもずっと、誰かの力を借りながら生きていくんだ。
人は、ひとりじゃ生きていけないんだから」
あの連中が取った選択を、絶対に容認してはいけない。
あんな非道を見なかったことにして見過ごしてもいけないんだ。
……どうしてなんだろうな。
どうしてあんな極論を実行できたんだろうな。
どうして恐ろしいことをしたあとで、平然と生活ができるんだろうな。
きっと俺には……。
いや、俺たちはこれからも理解することができない。
一生理解できることではないのかもしれない。
でも、それでいい。
そんなものを理解する必要なんてない。
みんなも俺と同じ気持ちでいてくれているんだ。
それをしっかりと感じさせる想いを伝えてくれた。
なら俺は、みんなに恥じない行動をし続けるだけだ。
視界が徐々に開けていき、眼前に広がる懐かしい光景。
いや、正確にはこの場所ではないが、それでも感慨深い場所が見えてきた。
……ジジイの口ぶりではコルネリアの生存は絶望的だ。
正直に言えば、限りなくゼロに近いと言わざるをえない。
それでも、たとえわずかであってもその可能性を信じながら、俺たちは足を止めることなく進めた。