舐めるんじゃねぇ
フラヴィとエルルから戸惑い、ブランシェからは鋭い威嚇に近い気配を感じた。
リージェはとても悲しそうに彼らへ視線を向けているが、彼女の想いはきっと欠片ほどにも伝わらないだろう。
そもそも常識やモラルが通じるような相手であれば、こんなことにはなっていなかった。
こいつらはすでに倫理の外。
踏み込んではいけない領域に立っている。
それをしっかりと理解してしまったからこそ、みんなは怯え、恐れ、苛立ち、悲しみの中にいる。
俺自身はそんな感情を向ける価値すらない連中だと思うが。
まぁ一応は、最低限でも役目を果たさなければならない。
「もう一度聞く。
コルネリアはどこにいる」
「……何を言っているのか――」
「――俺はクーネンフェルス冒険者ギルドマスターのベッカー氏から直接ギルド依頼を受けた冒険者だ。
依頼内容は"コルネリアの捜索と救助"。
……そう言えば理解できるな?」
強く睨みつけながら言葉を放つ。
一瞬目を泳がせたジジイに三度続けた。
「もう一度聞く、人でなしども。
コルネリアは今どこにいるか、お前らの言葉で答えろと言っている。
この質問を無視するなら、この村にいる全員を武力で捕縛し、クーネンフェルス憲兵詰所に強制連行する。
少しは手加減をしてやるつもりだが、骨の一本や二本は覚悟しろ」
村人のひとりが手を上げると、何かを持った数名が俺の前に立ち塞がった。
まるで村長を護るように広がる連中を見てるだけで落胆のため息が出た。
「た、たった5人で何ができるってんだ!
こっちは20人以上いるんだぞ!」
男が放った言葉に、俺は思考が止まった。
……こいつは今、何を言ったんだ?
理解に苦しむどころか、理解すらできない。
鍬だの鋤だの、武器としては使えないものを持っただけで俺に勝てる気でいる。
バルヒェットって遭遇した馬鹿男を思い起こさせるが、今度はあの時とは違い素人だろうと遠慮なくボコれる正統な理由があるからな。
それならそれで全員を潰せばいいだけなんだが、一応は理性的に話を進めるか。
男たちに近づきながら、後ろにいるみんなへ手を向けた。
"その場で待機を"という意味になるが、教えていなくともこんな状況で動く子もいないだろうな。
少々鋭い瞳をしながら歩いたのか、武器だと思い込んでいるモノを手にする男たちは俺の気迫に圧されて数歩下がった。
その動作すべてに苛立ちを強く感じる。
襲いかかる度胸も覚悟もないなら、初めからそんなもん持つな。
武器にすらならない農具だろうとこの状況で俺に向けるならお前らは全員敵だ。
それすらも分からないなら、お前らが何を仕出かしたのかを泣いて許しを請うまで徹底的に教え込んでやってもいいんだが。
それでも一応は警告をしてやるべきだろうな。
体裁上、俺から襲いかかることは控えなければならない。
左足を軽く上げ、極々微量の力を込めて地に叩きつける。
凄まじい轟音が鳴り響き、半径5メートル内の地面を軽くへこませた。
衝撃による強い振動に耐え切れなかったんだろう。
農具を落としながら地面にへたり込む男ども。
恐怖に慄く表情を見せようが、不思議と何の感慨も湧かなかった。
「警告する。
後ろにいる家族に手を出すつもりなら両断される覚悟をしろ。
俺は大切な人に敵対する馬鹿を見過ごす慈悲は持たない。
胴と腰を離れさせたいやつは遠慮なくかかってこい」
苛立ちを抑えながらも瞳を鋭く、何より冷徹に言葉を続けた。
「ふざけた態度を取るなら相手は慎重に選べ。
……鍛えた冒険者を舐めるんじゃねぇ――」
敵意を剥き出しで強く威圧を放つ。
それで失神しようが精神を崩壊させようが、俺にはどうでもいいことだ。
お前らがしたことを考えれば、こんなのは可愛いもんだ。




