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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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そんな危険を冒さなくとも

 この世界にある武器について、正確には刀や太刀と呼ばれるような剣があるかを訊ねてみるが、さすがにそこまで詳しくは分からないようだ。


「極東の国にはそういった形状の武器があると聞いたことがあるが、実物を見たことはない。

 それがトーヤ殿が求めているものかどうかは、私には判断しかねる。

 多少時間をもらえば取り寄せることも可能だが、どうする?」

「いえ、実際に手にしてみなければ分からないので、武器は自分で見つけます」


 だが、東の国に行けばそれっぽい武器が手に入ることを知れただけでも収穫だ。

 日本のような場所の可能性も見えてきたし、いずれ向かうのも視野に入れるか。


「トーヤ殿がこの町を出るのに合わせて馬車を用意する。

 あまり快適とはいかない旅になるが、ヘンネフェルスまで無事に着くだろう」


 便宜を図ってくれる彼には申し訳ないが、その経路は通らないと俺は答えた。


「俺たちは北の町ではなく、東にあるリューレの森を北西に抜けてヘルツフェルトに向かいます」

「わざわざ徒歩でそんな危険を冒さなくとも……。

 いや、徒歩とはいえ、その方が迷惑をかけずに着くか。

 それに足取りを掴まれないためにも効果的ではあるが……」


 自問自答をして納得をする彼に、それだけではないと答えた。

 人目に付く場所を通るだけで、いらぬ厄介事を増やしかねない。

 街道を避ける必要性を感じる俺の考えは正しいはずだ。


 そもそも暗殺者が街道を歩くだけでどんな被害が出るのかも分からない以上、森や林を通って進む方がいいとも思える。


 しかしそれも、ヘルツフェルトに着く手前までになる。

 そこからは否が応でも街道を通らなければ迷宮都市には向かえないだろう。


「……なるほど。

 つまりは修練も兼ねている、ということだな。

 であれば、トーヤ殿がヘルツフェルトから乗る馬車の手配をさせてもらう。

 街道を徒歩で進むよりも、ずっと悪目立ちしないだろう。

 ギルドに提出すれば話が通るように手紙を用意する」

「ありがとうございます」

「こちらこそだ。

 暗殺者の件、無茶を承知でお願いする」

「はい。

 必ず吉報でお応えします」

「……感謝する」


 少しだけ言葉を詰まらせた彼は立ち上がり、一通の封筒を準備した。

 ヘルツフェルト冒険者の受付で提出すると馬車を用意してくれるという。

 周辺に詳しい、それも御者の姿を装った冒険者の護衛つきとのことだ。


 俺たちとしては経験のある冒険者に同行してもらえるのは非常に心強いんだが、暗殺者がいつ襲ってくるかも分からない現状で護衛依頼に就くのは、かなりの負担になるんじゃないだろうか。


 そう思えてしまう俺に、問題ないと彼は断言した。


「護衛者はこの町の冒険者で、私の信頼する部下でもある。

 現在はヘルツフェルトに帰省しているが、事が事だ、無理を通させてもらう。

 話を通すのに今から最低でも5日はかかるが、距離を短縮して森を進んでもこちらの到着が早いだろうし、待たせることもないはずだ」


 実際には町に到着後ギルドに連絡をして、休息を取る形になりそうだ。

 翌日護衛者と合流して、馬車で街道を移動することになる予定か。


「目的地まで向かえるよう手筈を整えるが、やむなく別の道を向かう場合は可能であればギルドから手紙をこちらに送って欲しい。

 今後の方針は、迷宮都市のギルドマスターと首都にいるグランドマスターの報告を聞いてから詳細を決めたいと思う。

 トーヤ殿たちがバウムガルテンに到着するころには結論を伝えられるだろう。

 ……私にできるのは、このくらいまでだ」

「いいえ、十分すぎます。

 ギルドの全面的な協力に感謝します」

「……すまないな、トーヤ殿。

 勝手な言い分で申し訳ないが、どうか気をつけて進んでもらいたい」

「はい、ありがとうございました」


 席を立ち、難しい顔をしながら、俺たちはギルドマスターの部屋から退室する。

 扉にふれた手を離すまで少しだけ時間はかかったが、一拍だけ呼吸を置き、気持ちを落ち着かせてみんなへ振り返った。


「トーヤ……」


 心配そうに声をかけてきたエルルに俺は答えた。

 大丈夫だと。

 俺が護るから安心していいと。


 そんな俺を、とても心配そうにエルルは見つめていた。

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