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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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見えてきた

 深く深くため息をつくように呼吸を整えるギルドマスター。

 しかし俺が言葉にした意味を思い返すうち、その真意に辿り着いたようだ。


「……なるほど。

 只ならぬ気配は感じていたが、まさか……。

 ……いや、トーヤ殿はトーヤ殿だな。

 だがこれで希望が見えてきた」


 まるで自分に言い聞かせるように小さく呟くが、希望が見えたと言葉にした彼の判断も正しいと思ってもらえるような言い方をした。


 空人の所有スキルは強力だ。

 それも使うことすら躊躇するようなものもある。

 本音を言えば使いたくないスキルでもあるが、そんなことは言っていられない。

 こちらの命を摘み取りに来る敵を前に迷えば、確実に悲しい結果へ繋がる。


 そんな気配すらも彼に伝わったのだろう。

 覚悟を決めるように小さく首を縦に振り、話を続けた。


「トーヤ殿。

 戦闘となれば、こちらは手を出せないのが本音だ。

 しかし空人ほどの強者であれば、援護はかえって邪魔になりかねない。

 そちらは任せるとして、こちらはこちらのできることをさせてもらう」


 実際に彼が力になれることも、これまでのギルマスと同様に少ない。

 だが、こと悪人の捕縛となれば、話は少し変わってくると彼は話した。


 具体的に何ができるのかをそれとなく訊ねてみたが、どうやら思っていた以上のことになりそうだ。


「情報収集はもとより、間接的な形でなら支援ができることもあるかもしれない。

 今回のような悪党を逮捕するのに、理由は適当でも問題ないと私は思っている。

 奴隷を連れていようがいまいが、どんな理由だろうと拘束することが重要だと。

 何か問題事程度でも起こそうとするだけで憲兵が動けるようにもできるだろう。

 現在はバルリングに滞在していると思われるが、暗殺ギルドと繋がりがあるのであればいずれはトーヤ殿の存在を知り、行動に移すことは確実だ。

 まずは子息を捕縛し、本国から正式な要請が届くまで男を拘束、詰問する。

 ここでも憲兵やギルドの不手際として、少しの時間を稼ぐことはできるはずだ。

 その間、パルヴィア公国の穏健派と秘密裏に接触し、可能な限り根回しを行う。

 しかし、逮捕を察知した暗殺ギルドが先に動き出す可能性も考えられるだろう。

 トーヤ殿たちの準備が済むまで可能な限り時間を稼ぎ、解決に備えることをこの場で約束する」


 彼の言葉に、正直俺はどう答えていいのか戸惑った。

 それが意味するところが分からないほど子供でもない。


「……いいのですか?

 ギルドにかなりの面倒事を押し付ける形になってしまいますが」


 それが意味することは裏方の、それも厄介事ばかりを引き受ける形となる。

 こちらはあくまで指輪の持ち主との交渉と、暗殺ギルドからの刺客の撃退だ。


 正直に言えば、それだけでもかなりの厄介事ではあるんだが、もう後戻りができない以上、これは俺自身が解決するべき問題となっている。


 政治に関しては素人だし、腹芸なんてできない俺には手が出せない。

 ましてや本物の政治家を相手に舌戦ですら俺には難しいだろう。

 おまけに思考が表情に出ているなんて論外としか言いようがない。


 それに、男の身柄を暗殺者が回収する可能性だって考えられる。

 もしそれが現実になれば、多数の死傷者が出かねない。


 様々な状況次第ではあると思うが、本国にいる現当主が息子を切り捨てることだってあるんじゃないだろうか。

 致命的な情報を知られるくらいならと考えるような相手じゃないだろうか。


 そんな可能性も見えてしまう俺の耳に、彼の言葉が届いた。


「トーヤ殿の杞憂も分からなくはない。

 だが、その場合は違う手を打てるだろう。

 もしこの国にいる憲兵やギルド、それらに関わる者が多大な被害を被った場合、抗議どころでは済まされない大問題となる。

 まず間違いなく世界中の冒険者ギルドが敵として認識するだろう。

 そうなればパルヴィア公国から冒険者ギルドが撤退させる非常事態となる。

 ギルドが撤退などという前代未聞の事態に公国の穏健派が放置するはずもないのだから、自国民を護るためにマルティカイネン家を本格的に潰すと予想される。

 男が消された場合も同様の扱いができるよう、男には必ず窓のない部屋に5名以上の見張りをつけ、交代要員に暗殺者が紛れ込まないことと男の監視を怠らないことは徹底する」

「し、しかし、それでは多くの憲兵の命が失われることになりかねません。

 最悪の場合、被害だけを被ることだって十分に考えられるのでは?」


 問題の男は本国に逃げられ、憲兵の命が奪われる。

 その可能性がゼロになることは絶対にない。


 情報は得られず男も逃がし、あとには被害だけが残る。

 そんな最悪の結末すらあると、俺には思えてならなかった。

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