俺は赦さない
「……ひとつだけ、俺にできることがあるかもしれません」
俯きながら何かを考えていたギルドマスターだが、俺の言葉に顔を上げた。
それは困惑を感じ取れるような表情なことから、その推察を彼も考えていたんだろう。
そんな彼に俺は言葉にする。
心に覚悟を決めるように。
絶対に守り通すと決意するように。
「俺が、暗殺者を捕縛します」
「……それは……いや……しかし……」
言葉に詰まる彼へ、続けて俺は口を開いた。
「当然、これはまだ仮定の話です。
本当にいるのかも定かではない相手に、どうなるかはまだ分かりません。
ですが、俺はどこか確信できるように思えてならないんです。
とても曖昧に聞こえますが、確実に俺と敵対するはずだと」
今はまだ俺の存在に気がついていないだろう。
指輪を持つ俺を泳がせているような気配も感じない。
察知能力だけを信じることは極力避けるべきではあるが。
戦う覚悟もできた。
自決の道も封じられる。
捕縛することは可能だろう。
だがその先については、ギルドと憲兵にお願いするしかない。
とても俺にはできそうもないと思えることが控えている。
「問題はその後になります。
それについては憲兵とギルドにお任せしたいと思います。
どの道、指輪を持ち主に返さなければなりません。
ここで挑発するように行動すれば、俺を狙ってくるでしょう。
上手くいけば、暗殺者を引きずり出すことができるはず。
確実に持てる接点を利用しない手はありませんし、何よりも俺に意識を向けることで他が動きやすくなるはずですから。
その間、恐らく問題の男もこの国を離れることはないでしょう。
コケにされたら引き下がれない、無駄に高い自尊心を持ち合わせているはず。
まず間違いなく、俺の行く末を確認できる場所で待機すると思われます」
「し、しかし、それではトーヤ殿に"最悪の刺客"が送り込まれることになる。
ここにいる子供たちにも危害が及ぶのは明白だ。
連中はためらいを知らずに命を奪う外道そのもの。
トーヤ殿を狙うよりも、その子たちへ刃が向くだろう」
それも想定済みだ。
だからこそ最善の選択を探り続けてきた。
だが、いくら考えても選択肢が増えることはない。
できることは最初から非常に限られていたんだ。
指輪を持っている時点で、こちらに分が悪いことも分かっていた。
俺ではなく子供たちを狙う可能性の方が遙かに高いはずだ。
だからこそ、この子たちを真剣に鍛えている。
この世界では過ぎた力になる"静"と"動"を教え、体得させようとしている。
眠っている間も気配察知ができるようにと訓練を積ませ、リージェ以外は形になりつつあるほどまで体得している。
もちろんこれは"保険"にすぎない。
あくまでも暗殺者と戦うのは俺ひとりだ。
この子たちがどんなに願っても戦わせる気はない。
それに、俺の言葉には重みがないのも十分理解しているつもりだ。
18やそこらの若造が口にしても空々しく聞こえるだけだろう。
だが、この言葉ひとつでそれを一変させられる。
それだけの意味を持つ単語を、俺は体現している。
「ベッカーさん、俺は"空人"です。
特有と思われる強力なスキルもいくつか所持しています。
戦う術も"俺が住んでいた世界"でしっかりと学び、誰かに教えられるほどの力として昇華しました。
人の命を奪うことに何も感じない連中に遅れは取りません。
何よりも家族に危害を加えようとするやつを、俺は赦さない。
敵対してくれば必ず捕縛し、生きたまま憲兵詰所に突き出します」
「……と、トーヤ殿……」
目を丸くする彼に、思わずそんな表情もできたのかと考えてしまう。
それも俺の言葉で驚愕させているんだから、原因はすべて俺にあるんだが。