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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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済まされない事態に

 しかし、どんなものでもいいわけではない。

 決定的と確信できるようなものが必要になる。


「"この国に住まう者は自由であるべき"という信念を強く持つこの国は、奴隷制度を認めはしない。

 もし往来で堂々と奴隷を連れ歩いている痴れ者がいれば逮捕される。

 しかし今回に限って言えば、見なかったこと(・・・・・・・)にされる可能性が非常に高い。

 むしろ逮捕でもしようものなら最悪の結果しか生まないと予測される以上、バルリング憲兵は動けずに静観するほかないと判断せざるをえないだろう。

 ……忌々しいことだが、奴隷を連れているだけでは逮捕できない」


 鋭い瞳で答える彼は、どうやら問題の貴族を捕まえようとしてるみたいだ。

 それがどんなに危険な相手だったとしても、町の安寧を脅かす存在を放置することはできないと、彼は非常に強い覚悟を感じさせる声色で続けた。


 だがこのまま逮捕したとしても、現当主を捕縛するまでは至らない。

 パルヴィア公国を預かる大貴族の半数以上とも足並みを揃えなければならないが、まずはこの国にいる問題の男を捕まえられなければ、すべてが徒労に終わる。


 それどころか男の目的とこちらの出方次第では、穏健派を押さえてマルティカイネン家が更に勢力を伸ばす切欠すら与えかねない最悪の事態となるかもしれない。

 このままでは手が付けられないほど強大な力を保有する可能性すら見えてくる。

 その後ろ盾となる組織が裏で暗躍している以上、それは実質パルヴィア公国を手中に収めるのと同義だ。


 そうなれば、最悪の道へ向かうことは容易に想像がつく。

 反対派の粛清、貴族の縮小、都合のいい法改正、恐怖と重税による圧政と弾圧。

 そのすべてを大規模な単位で、それも国民に知らしめる目的で行われるだろう。


 考え出せばキリがないほど、悪い思考しか出てこない。


 何よりも暗殺ギルドの存在が、国民のクーデターを赦すことはない。

 恐らくは亡命すら見逃さない最悪の"魔王"が誕生することになるだろう。



 これは対岸の火事ではない。

 他国を挟み、パルヴィア公国から相当の距離があるからといって、影響を受けないはずがない。


 事はもう貴族を捕縛するだけでは済まされない事態に直面している。

 だからこそ、これほど多くのギルド長たちが関わっているんだ。


「問題はマルティカイネン家を失墜させるだけの材料が揃わないことだ。

 現当主の黒い噂はパルヴィア公国でも絶えないが、どれも証拠不十分だと聞く。

 決定打がない以上、指を咥えてみるしか我々にできないのが現状だ」


 もう、ほんの少しで手が届きそうで届かない。

 そんなもどかしい日々を、彼だけじゃなく各町の長たちは感じているようだ。

 恐らくこの件は、周辺の町すべてのギルドマスターに話が通っているんだろう。


 奴隷を連れ歩くことで逮捕ができたとしても、パルヴィアから正式な書簡が届き、そう遠くないうちに釈放されると思われた。

 そうなればマルティカイネン家に連なる者は領地へ戻り、二度とこの国に訪れることはないかもしれない。


 ある視点で考えるのならば、これは絶好の好機と見る者も少なくはないという。

 特に憲兵を統括する者や、ギルドマスターの席に座る者であれば考えることだとベッカーは続けるも、残念ながら好転の兆しはまったく見えないと答えた。



 何かひとつでも情報が。

 そう思えば思うほど、あることが頭をよぎる。

 現実的とはとても思えない、けれど実現できそうにも思える曖昧な案を。


 しかし、それを口にした瞬間、ことは大きく動き出すかもしれない。

 人ではない、何か運命のような見えない力が。


 そんな気がしてならない俺は口を噤む。

 子供たちを抱えている以上、できる限り避けたい。

 だが、現状ではこれしかないとも思える。


 ……それでも。

 抗えないことのようにそれは襲いかかってくるだろう。

 唐突に、なんの前触れもなく、襲いかかってくるだろう。

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