こんな奴いねぇからな
俺の問いにライナーは首を傾げるも、同じ言葉が俺の世界でも使われていることを話すと、どこか納得したように頷いた。
彼はラインハルト・フライヘーア・フォン・ヒルシュフェルトの末子で、上に年の離れた4人の兄がいる。
名前の下に男爵とつくのが爵位を授与された者。
そしてその子息は、家名の後につけられるらしい。
とても家族仲のいい家庭で、現在は父から若くして当主を託された長兄を次兄と三男が支え、四男が自ら国内を歩きながら有益な情報を兄達へ送っているそうだ。
ライナーとはかなり年が離れていることもあって、随分と可愛がられていると話すディートリヒ達は嬉しそうな表情を見せる。
大切な仲間が大事に扱われているのを、まるで自分のことのように喜ぶその姿は、冒険者としての仲間というよりも"親友"という言葉が思い浮かんだ。
「ま、そんなこんなでライナーんちは男爵家なんだが、いい人達すぎてな。
俺ら平民でも親しく接してくれる、数少ない貴族なんだよ」
「ライナーさんが冒険者になりたいと話した時も二つ返事で送り出していただけた上に、いつも私達を伯爵邸に快く迎え入れて下さるのですよ」
「レリアの白銀剣はギルドに持ってくよりも、ライナーに届けてもらう方がいいと思えたんだ。報酬に関しては随分先になっちまうから、トーヤには悪いんだが」
「構いませんよ。俺もギルドに届けるよりずっといいと思えますから」
「そう言ってもらえると助かるよ」
視線を行き来させるライナーをよそ目に、話は滞りなく進む。
仲間達で発見したのだからギルドに提出してはと彼は提案するも、俺を含めここにいる者達の意見はすでに一致していた。
何度か言葉の応酬を繰り返すと、ようやくライナーは諦めたようだ。
「……申し訳なさが強いですが、みなさんのお気持ちをありがたくいただきたいと思います」
「気にすんな。俺達はそうするのが一番いいって思ってんだから」
笑いながらライナーの肩を強めにぽんぽんと叩くフランツだった。
話を少々戻し、丁寧な言葉を使わない方がいいぞと改めて言われた。
この世界で使うには相当目立つらしく、使っていると望んでもいないことに巻き込まれやすくなるのだそうだ。
恐らくは彼らの体験談も含めた上で話しているのだろう。
不必要な火の粉を払う手間を考えれば、言葉遣いを直した方が安全だな。
「……あまり目上の人に使う言葉じゃないんですが、仕方ないですね」
「この世界じゃ当たり前だからな。年齢だってそれほど差があるわけじゃない。
そりゃ30も離れてれば変えた方がいい場合も多いが、俺達には必要ない。
言葉を正す相手は選んだ方がいいが、その程度の認識で十分だと思うぞ」
「だな。正直この二人が特殊なんだよ。冒険者でこんな口調の奴いねぇからな?」
親指で後ろを指すように答えるフランツに、苦笑いしか出ない俺達3人だった。