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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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碌なものは出てこないが

 難しい顔をしながら、俺たちはギルドマスターの部屋から退室する。

 扉にふれた手を離すまで少しだけ時間はかかったが、一拍だけ呼吸を置き、気持ちを落ち着かせてみんなへ振り返った。


「トーヤ……」


 心配そうに声をかけてきたエルルに俺は答えた――



 *  *   



「私がこの町の冒険者ギルドを統括するベッカーだ」


 静かな口調で淡々と言葉にする中年男性。

 見た目は細い体系だが、彼もまた冒険者として名が知られていたんだろう。

 意志の強さを感じさせる眼光の鋭さを彼は持っているようだ。


「そちらのことは、この手紙を読んで把握した。

 これほど多くのギルドの長が関わっているとなる事件は、この国の歴史上で見ても稀だと言えるかもしれない」


 難しい顔をしながら雑談を挟むが、すぐに彼はそれを改めた。


「無駄口がすぎたな。

 ……今からちょうど10日前、バルリングでそれと思われる男共を確認した。

 馬車持ちで身なりのいい男が1名、護衛者と思われる風体の男が4名だ。

 御者はおらず、護衛者が務めているようだな。

 護衛者はあの国特有の騎士鎧を、問題の男は貴族の服を身に纏っている」


 当然これは、未だ曖昧な情報になる。

 貴族の格好をした他国の要人はこの国にたくさん訪れるし、そのすべてが怪しいとも思える今現在ではそれを断定できるほどの情報をギルドは持ちえていない。

 共有するのに数日かかることも大きいが、何よりも憶測で職質などかけようものなら国際問題に発展する可能性すら出てくる。


 ましてやパルヴィア公国は、ここよりも遙か南方の大国。

 不可侵条約以外、交易を含めてそれほど付き合いのない関係を続けているこの国では、おいそれと手を出せない微妙な立場もあるとベッカーは続けた。


「これはバルリング憲兵と商業、冒険者、両ギルドマスターからの情報になる。

 そして昨日、"進展なし"との連絡が当ギルドに届けられた。

 報告を含む連絡は1日毎に行われるが、その意味をトーヤ殿は理解できるか?」

「……現在もバルリングに留まっている可能性があるんですね」

「そうだ」


 短く答えるベッカー。

 だが疑問も残る。

 それが問題となっている貴族とその従者だと仮定して、ひとつの町に留まるのは理由が大きく限定されるだろう。

 これまでの推察を考慮した上で答えを導き出すと、碌なものは出てこないが。


「……東北東のバルリングからこの町に向かうには、北東にあるリーゼンフェルトからレルナー街道を通らなければならないはず。

 周囲が森に囲まれている町と街道を、誰にも悟らせず馬車での移動は不可能。

 となれば、バルリングに滞在し続ける理由がある、ということですね」

「我々ギルド側もそう考えている。

 当然これは、かの者がそうであると仮定しての話だし、未だ推察の域を出ていないが概ね間違いではないはずだ」


 レルナー街道はあまり広くない上に、周囲の視界もそれほど良くないと聞く。

 森の中を馬車で突っ切る可能性はゼロだが、徒歩ならば話は別だ。

 しかし、貴族が自らの足で移動するとはとても思えない。

 バルリングに留まっている可能性は非常に高い。


 ではなぜ、という疑問が頭をよぎる。


「バルリングはブロスフェルトと同規模の大きさと人口密度だと聞きます。

 それだけの町には"闇の部分"を抱え込むことも多いのでは?」

「……切れ者だと手紙には書かれていたが、本当にそうみたいだな。

 あの町にはギルドや憲兵も簡単に手を出せない規模の犯罪組織が存在する。

 大きいとは言われないこの町クーネンフェルスの人口は、高々25万人弱程度。

 小さいとも言える町のギルド長が偉そうなことを口にはできないが、大きな町で起こるすべてを把握するのは不可能に近い。

 そしてその対処もまた同様に難しいと言わざるをえないだろう」


 確かにその通りだ。

 大きければ大きいほど、町を安寧に導き続けるのは難しいはず。

 そのひとつは犯罪に手を染める連中が隠れるように住まうことだろう。

 嫌な話だし、考えたくもないことではあるが、そういった集団が極端に膨れ上がるのも仕方がないのかもしれない。

 カネの匂いを感じ取れば、どこにだって湧いてくるもんだ。


 だが、俺の思っていた以上の連中がバルリングにはいるようだ。

 その可能性すら考えていなかった俺は、虚をつかれることとなる。


「バルリングの裏社会には"奴隷市"が出ると噂される。

 確証はないが、滞在する理由はそこにあると私は推察した」


 たったひとつの単語で、これほど感情を逆なでされるとは思っていなかった。

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