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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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感情的になる傾向が

 鋭く速く、コボルトにダガーで一撃を与えたフラヴィは、その場を離れる。

 粗末な棍棒を振り下ろすも、この子はすでに攻撃範囲から下がっていた。

 危うくなく攻撃を避ける姿は、まるで歴戦の冒険者を見ているようだ。


撃つよ(ティレ)!!

 "小さな火の壁スモール・ファイア・ウォール"!!」


 地面から生えるように出現させたエルルの魔法壁を足場にして高く飛び上がったブランシェは、コボルトの頭上を狙い降下する。


 そんな彼女へ向けて矢を射ようとする別のコボルト。

 それをしっかりと見ていたリージェは、魔法での足止めをした。


撃ちます(ティレ)

 "サンドブラスト"!」


 威力はないに等しいが、砂を強めに吹きつける効果で視界を遮った。

 一瞬、目を護るように腕を上げた隙を狙い、フラヴィが一気に駆け寄る。

 袈裟切りから逆に返す左切り上げ、続けて刺突の3連撃でコボルトを倒した。


 しっかりと剣術の型が身についているのは俺の知識を受け取っているからだが、それをこの子の小さな体で体現することそのものがそもそも難しいはず。

 特に最後の鋭い突きは踏み込みもされていたし、水月(みぞおち)にダガーが直撃していた。

 やはりこの子だけは技術が卓越していることもあって、安定感が群を抜いてる。


 攻撃も防御も回避も。

 どれを取ってみても完成度が高い。


 ……未だに容姿は3歳児だが、細すぎると思える手足からあれほどの動きが出されることに違和感を強く覚えてしまう。


「――ぅりゃああッ!!」


 ずどんと凄まじく鈍い音を響かせ、大地を揺るがすブランシェ。

 両手に持った大槌をコボルトに叩きつけ、一撃で光の粒子に変えた。


 ……相変わらず凄まじい威力だと、内心では冷や汗が出るほどの攻撃がこの子はできるようになっている。

 それもブロスフェルトの武具屋で購入した、重さ重視の戦槌があってこそか。


 まぁ、あんなもの、俺でもぶんぶんと振り回すのは難しい。

 力を使わなければブランシェはもう俺よりも遙かに腕力が高いな。

 この子が持つ身体能力の凄まじさを、鳥肌が出るほど感じさせられた。



 周囲を確認する4人は警戒を続けながらも息をつき、こちらへと戻ってくる。

 戦闘後に話し合うことも変わらずで、最近は随分と様になってきたと自分たちでも肌で感じているんだろう。

 より詳しい話を求めて俺に訊ねる機会が多くなった。


「どうかなどうかな!?

 今のは結構良かったんじゃない!?」

「……はぁ。

 なんて素敵なハンマー……」


 どこか楽しそうに訊ねるエルルと、うっとりと戦槌を見つめるブランシェ。

 恍惚とした表情にも見えるが、あまりそういった顔はしないでもらいたいな。


「今回の及第点はリージェだな。

 周りをよく見ながらサポートをしっかりできていた。

 フラヴィは文句のつけようがないほど見事な連携と連撃だったよ」

「ぱーぱにほめられたっ」

「ようやく及第点が取れましたね。

 とても嬉しいのですが、おふたりは何か問題があったのですか?」

「そうだよそうだよ!

 魔法を足場にするなんて、いいサポートだったでしょ!?」

「アタシもかなりいい手ごたえの一撃が入れられたと思うんだけど、あれじゃだめなの、ごしゅじん?」


 珍しく言い返してきたエルルだが、それほど悪い対応じゃなかった。

 しかし、そう言いきれるものでもないことも確かだ。


「まずはそこだな。

 魔法を放つ時に前衛のふたりへ合図をするのは良かった。

 それに魔法を踏み台にして攻撃に変化をつけたのも悪くない。

 でもブランシェが高く飛びすぎたこともあって、相手には避けられやすい。

 それどころか空中じゃ動き辛いから、その分危険も大きいんだよ」

「「……ぁ……」」


 言葉にならない小さな音を出すふたり。

 こうやって自分たちでも気づかないことを教えるのもいい勉強になる。


 リージェも含め、この子たちは物覚えが非常にいい。

 何でもすぐに吸収し、自分達で考えた方法を実行する。

 それが拙くとも次はさらに精度を上げて戦ってきた。


 今回見せたエルルとブランシェの連携もそれだ。

 拙さは感じるが、発想自体はそれほど悪いものじゃない。


 あとは空中で動けるなら問題ないが、この子たちにはまだ無理だろうな。

 それができるようになるまではポンポンと空に飛び上がるのは推奨できない。



 これまで気にはなっていたが、ブランシェはどこか感情的になる傾向が強い。

 それもここ最近で急激に変わったようにも俺には思えた。

 こと戦闘となれば落ち着きを見せるフラヴィとは対照的だ。


 それにこの子の動きには、無駄が多過ぎると思える。

 空高く舞い上がるように上へ飛んだのもそのひとつだ。

 色々と戦い方を試しながら修練を続けている今ならばいい。

 だが野盗相手にそれが通じるかといえば、必ずしもそうとは限らない。


 わずかな隙ならそれを小さくすればいいが、今の行動にはそれが大きすぎた。

 熟練者を相手取って無傷では済まされないほどに危険なことだと俺には思える。

 本音を言えば、俺なら飛び上がった瞬間を狙って一撃で終わらせられる。

 それほどの致命的な隙があるんだとはっきり伝えるべきなんだろうな。


 俺やフラヴィ、そしてリージェとは違い、ブランシェは"動"に寄りすぎている。

 エルルよりも遙かに、いや、確実に"動"に寄っているとも思えるな。


 それどこか、一撃必殺で敵を倒そうとしている傾向を強く感じた。

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