素直に憧れるよ
言葉を詰まらせるユリウスに、リージェは言葉を紡ぎ続ける。
泣きそうな顔をした大人の男性に、俺はなんて声をかけていいのか分からない。
まして彼が犯した過ちは、"決して赦さない"と断言されることすらあるだろう。
ひとつだけ分かるのは、たとえその"答え"を思いついたとしても、俺にはそう答えられるのかは分からないと思える優しい言葉がリージェから紡がれたことだ。
「それでもあなたが贖罪を望むのであれば、これからも冒険者を続けてください。
その背中の盾はフリートヘルムさんが持っていたものと、とても似ています。
きっとあなたはその大きな盾で、大切な人を護り続けていたのですね。
そんなあなたを誇りに思うことこそあれ、悪く思ったりするような方ではありませんから」
「――ッ」
彼女の言葉に、感情を抑えられずに想いを零れ落とした。
いったいどれだけ溜め込んでいたのか、俺には分からない。
ユリウス以外、それを正確に知る者はいないのかもしれない。
でも、今の彼が見せている悲痛な面持ちから感じられるのは、どこか安心できるような心情へ向かっていることだけは確かだろう。
まるで氷が解けていくように、徐々にではあるがユリウスを包み込んでいた負の感情が収まりつつあった。
ランクS冒険者。
それは、技術や経験だけで到達できるものではないと聞いている。
様々な要素も必要となるらしいが、中でも取り分け重要なのは"信頼"だ。
ギルドからはもちろん、仲間以外の冒険者から信頼されるような人物でなければ辿り着けないとも言われているらしい。
傍若無人に振る舞い、他者を見下す者もいると思うが、彼には当てはまらない。
間違いなく彼は人格者だ。
そしてそれは、今回の一件のはじまりから繋がっている。
"彼の死は無駄じゃなかった"とは思わない。
もっと違った未来があったのは確実だ。
リージェも、フリートヘルムも、ユリウスも。
そして優しい眼差しをふたりに向け続ける司祭も。
"誰もが笑っていられた世界"だって、確かにあったはずなんだ。
だが、それでも彼の存在があってこそ、今のユリウスがあるのは間違いない。
人は、過ちを繰り返す。
だからこそ、二度と同じことを起こさないように冒険者を続けているんだろう。
その背負った大きな覚悟で、大切な仲間を護り続けているんだろう。
違う道だって選べたはずだ。
それでも同じ道を歩き続けているのは、それが"逃げること"だとユリウス自身が知っているからだ。
なら、きっと大丈夫だ。
彼はもう、同じ過ちを繰り返すことはない。
確信することではないが、俺には不思議とそう思えた。
……真面目だな、ふたりは。
いや、彼もきっと、そんな感じの人だったんだろう。
俺には息が詰まると思えてしまうが、素直に憧れるよ。