俺がするべきこと
目を丸くしながら立ち尽くす男に見覚えがある。
この男とはギルドで一度会っているな。
最高峰のランクであるSに到達した冒険者だ。
名前は確か、ユリウスとか言ったか。
誰かの墓参り、なんて思うわけもない。
……そうか。
彼が思い詰めるようにしていたのも、この時期だったからなのか。
危うさすら確信させるほどの注意力のなさに口を出しかけたが、まさかこんなことになるだなんて、あの時は想像もしていなかったな。
瞳を大きく見開いたまま、墓碑の前にいる彼女から視線を外せずにいるようだ。
「……君は……いや、そんな……。
……まさか……君が、そうなのか……」
呟くように小さく言葉にするユリウスは、リージェが答える前に駆け寄り、膝と手を地面につけて頭を下げた。
その姿に戸惑いを見せるが、そう時間をかけずに彼女も理解したようだ。
何かを言いかけたリージェは開いた口を戻し、寂しげな表情を見せた。
それは彼ではない、どこか遠くを見つめているようで、彼女には想い人が見えているのかもしれない。
そんな彼女へ、はっきりとした声色で男は言葉にした。
「俺の名はユリウス。
あなたからフリートヘルムさんを……奪った男だ」
そう言葉にして、彼は自分が仕出かした過ちを話し始めた。
自惚れ、過信、慢心。
ましてや粋がってたガキを護るために庇った結果がこんなにも悲しい結末を導き出すだなんて、どんな言い訳を口にしても赦されることではない。
……尊い命は、決して帰ってこないのだから。
「あの時こうしていれば。
もっと思慮深く行動していれば。
この13年、何度思ったことか分からない。
だがどんな理由があろうと、赦されるはずがない。
俺は、あなたの大切な人を奪ってしまった」
涙を堪えながらユリウスは答える。
ここで涙を流してしまえば意味が変わるのを、彼は知っているんだろう。
「謝罪した程度で赦されることでは決してない。
それでも、あなたに謝らずにはいられなかった」
司祭も寂しげな瞳で、俺たちと同じように静観してるようだ。
恐らくは彼からフリートヘルムさんの話を聞いたんだろう。
だからこそ10年もリージェを探し、つい最近まで大切な指輪を保管していた。
それがどれだけ大切なものなのか、彼は十二分に理解していたからだ。
固まるように悩み続けたリージェは、俺の方へ視線を向けた。
そんな彼女に俺がするべきことは瞳を閉じるくらいだろう。
酷かもしれないが、これは彼女自身が答えを出さなければならない。
外から、ましてや彼を知らない俺が口を挟むことはできない。
子供たちもそれを理解しているんだろう。
誰ひとり言葉にすることなく見守っていた。
しばらく時間をかけて考え続けた彼女は、いつもと同じような優しい笑顔で言葉にした。
「どうか、頭を上げてください」
今も地に頭をつけ続けるユリウス。
その心は、深く謝罪をしている気配が感じられるものだった。
彼は、あいつらとは違う。
心から悪いと思ってくれている。
それをリージェも理解したんだろう。
膝をついて彼の肩にふれながら言葉にした彼女の表情はとても優しいもので、そんなリージェの導き出した答えを俺は誇りに思えた。
「あなたは、とても優しい方ですね。
不思議とそれを感じ取ることができました。
彼を失ってしまったことは悲しいですけれど、あなたを護って旅立ったのなら、彼はどこか納得していたようにも私には思えます」
「そ、そんなはずない!
あの人は最期にあなたへの想いを言葉にしている!
無念以外の何ものでもないはずだ!」
顔を上げながら即答するユリウス。
俺も同じ状況なら、それ以外は思えなかったかもしれない。
だがリージェにとっては、そう思えないようだ。
「でも、あなたは今も冒険者を続けているのですよね?
それを彼はきっと喜ぶと私には思えてなりません」
「そんなはず――」
「彼は、とても優しい方でしたから。
あなたと同じように……」
満面の笑みでリージェは言葉にした。




