やはりそうなのか
ディートリヒの言葉の真意を理解できたエックハルトは、冷静に言葉にした。
そんな彼に続き、フランツもその意味を把握したようだ。
「……なるほど。それならば私も賛成です」
「あー、そういうことか。ならいいんじゃないか?」
ふたりが見せた様子に、ライナーも思いが至ったようだ。
驚きと呆れが入り混じる思考で彼は尋ねた。
「……まさか今回の件、ヒルシュフェルト家から渡す、ということですか?」
「そうだ。お前の家だけじゃなく、兄君達にもお前にも悪い話じゃない」
「いえ、しかしですね、今回はトーヤさんも加わって下さったこともありますし、何よりも僕と家のために融通してもらうのはいささか抵抗感があるのですが……」
「俺は構いませんが、話せる程度で説明をしていただけると嬉しいです」
「あぁ、そうだったな。その前にひとつ話しておくか。
トーヤの家柄がいいのは理解しているつもりだが、この世界では丁寧語の類を使わない方がいい」
彼の話によると、この世界でそういった言葉遣いをしているのは大商人や豪商、神官や司祭、貴族といった聖職者や上流階級の者達くらいしかいないらしく、つまるところ『私は家柄がとても良く、お金を持ってます』と自分から特殊な人間だと公言しているようなものらしい。
思えば最初から丁寧に話をし続けていたが、これまでずっと気になってたんだとディートリヒは言い辛そうに頬を指でかき、視線を逸らしながら話した。
「……中々言い出せなくて悪いな。街に着く前までには話すつもりだったんだ」
「それは構いませんが、うちはそれほど裕福な家でもありませんでしたよ?
どちらかといえば贅沢をしない、慎ましやかな暮らしをしていましたし。
父が道場を経営していたので、特殊と言えば特殊ではありますが」
そこまで言葉にして、ふと気がついたことがある。
この中にひとり、それに当てはまる人物がいる。
いや、エックハルトも神官だから特殊と言えるのだが、彼の場合は見た目からそれと分かる風貌をしている。
金銭目的で神官を狙うような馬鹿盗賊はさすがにいないだろう。
そんなことをすれば、世界中の教会から異端視されるはずだ。
問題は、もうひとりの方だ。
話の流れから察すると、やはり彼はそうなのか。
「つまりライナーさんは貴族、ということですね」
「まぁ、そういうことになるな。
俺達と一緒にいる時は"冒険者のライナー"なんだけどな」
「……隠していたわけではないのですが、中々言い出す機会もなくて。
この格好で名乗るのには違和感を覚えますが、改めて自己紹介をしますね。
僕の本名は、ライナー・フォン・ヒルシュフェルト・フライヘーアといいます」
「……フライヘーア? それは男爵家のご子息という意味ですか?」
思わぬところで大物と出会っていたようだ。
まさか冒険者の中に貴族が紛れ込んでるとは。
これに驚くなって方が無茶なんじゃないだろうか……。