まさにそれ
ブロスフェルトに戻れたのは、大樹跡地を離れてからちょうど6日目の昼だ。
……今にして思えば、子供たちが町をすぐに離れようとしなければ彼女がどうなっていたのか、想像するのも恐ろしい。
善は急げと言うが、まさに今回はそれだったみたいだな。
だからといって急ぎすぎても危険な目に遭うかもしれない。
こういった選択ひとつで物事が大きく変化してしまうのは厄介だ。
できるだけ心のままに行動することを心がけた方がいいと改めて思えた。
あの場所を離れてすぐ子供たちの反復練習をしながらリージェの修練も始めたが、どうやら彼女は気配を察する力が非常に巧いように思えた。
元々周囲を感じ取る感覚が鋭敏なのかもしれないな。
さすがにフラヴィ以上とは言えないが、たったの6日足らずでエルルやブランシェよりも広範囲を索敵できるようになったことは予想外だった。
お姉さんとしての威厳を保つことを重視していたエルルが彼女をどう思うのか、それとなく訊ねてみたが、どうやらリージェは最初からお姉さんとしての認識をこの子は持っていたようだ。
それも当然と思えるほどの長い時間を彼女はすごしている。
やはりエルルにとっては積み重ねた年齢や経験が優先されるんだろうか。
中々興味深いことを考えながら平原を進み街門へと戻ってくると、そこには出発時に呆れた様子でお小言を呟いた憲兵が立っていた。
「……無事で何よりだが……なんか増えてるな……」
「彼女と会う用事があって、それを優先したんだ。
乗合馬車だと寄り道ができないからな」
「……はぁ。
まぁ、無事を確認できただけで良しとするか。
通っていいが、子供を連れてあまり無茶はしないようにな」
「あぁ、いつもありがとう」
「そう思うなら気をつけて街道を進んでくれよ?
何かあってからじゃ遅いんだからな?」
そんな彼の心遣いに深く感謝した。
しかし、気持ちは非常にありがたいが、乗合馬車では修練ができない。
今後もこういった人たちをたくさん作っていきそうな旅になるかもしれないな。
* *
街門を通り、町へと進む。
視界が一気に開けたことに感動するリージェだが、表情はそれほど変化がないみたいだ。
ここまでの道のりで色々と話をして、彼女が感情を表に出しにくいことは理解したが、それでも笑顔で居続けてくれるリージェにほとんどの人が違和感を覚えることはないだろう。
それも大人の姿がそうさせているのかもしれないな。
「戻ってきたねー、ごしゅじんー」
「そうだな。
まずは教会に行こう。
食事はその後にして、少し休んだら防具屋でブランシェの装備を見てみようか」
「うんっ」
「そうだねって、ブランシェは大丈夫?」
「大丈夫だよー。
お腹は空いてるけど我慢できる」
……我慢するくらい腹が減ってるってことだな。
無理をさせるつもりはないが、こんな状況で食事も何もないからな。
教会へ向かう馬車を探して目的地に辿り着くまで1時間もかからないだろう。
今回はブランシェにも少しだけ我慢をしてもらおう。




