若々しく聞こえないが
強力な魔法を使った影響か、脱力感を強く覚える。
しばらくはゆっくり休む必要があるんだろうな。
空を見上げるように大樹へ視線を向けると、薄桃色の花を全体に咲かせていた。
とても美しい、どこか桜にも見える不思議な異世界の花。
名前はなんて言うんだろうか。
それとも、世界でも彼女だけの花なんだろうか。
どこか淡い光を優しく放つような花を見上げながら、俺は言葉にした。
「まぁ、無事になんとかできたみたいでよかったよ。
俺は枯れてる桜よりも、"美しく咲き誇る桜"が好きだからな」
「活力が戻るどころか、元気な頃よりもずっと若々しくなりました!
サクラ、というのは聞き覚えのない名前ですが、お肌はつやつやぷるぷるで、しっとりもっちもちの20代の頃に戻ったようです!」
「……その言い方は、若々しく聞こえないが……」
いまの言葉でさらに疲労感が溢れてきた気がする。
これはここで一泊した方がいいかもしれないな。
「……それで、これからどうするんだ?」
「もしよければ、あなた方の旅に同行させて下さいませんか?
視界に映る場所しか知らない私に、とても広大だと聞く世界を自分の目で見てみたいのです」
「元気になって思考もポジティブになるのはいいことなんだが、そもそもこの場所を離れられないからフリートヘルムさんの帰りを待ち続けていたんだろ?」
「そう、ですね……」
しょんぼりとした様子を見せる女性に、そんな姿も取れるんだなと思えた。
さてどうするかと考えたところで、俺に何かできるんだろうか。
……いや、ひとつだけ、それを可能にするかもしれない方法がある。
「そうだ!
トーヤのインベントリなら、この大樹も入れられるんじゃない?
マンドレイクの女性も入ってるんなら、きっと大丈夫だよ!」
「マンドレイクの女性、ですか?」
首をかしげて訊ねる女性へ話し始める。
彼女の想いを否定し、別の未来を彼女に託された時の話を。
そして眠るように花の姿へ変え、俺のスキルの中で静かにいることを。
静かに聴き続けていた目の前の女性は徐々に瞳を輝かせ、期待に胸を膨らませているのが手に取るように分かった。
もし彼女を、いや、大樹をインベントリに入れられるなら、彼女は世界中を歩けるようになるかもしれない。
……俺の周囲のみ、という制限がつくことになりかねないが。
そんな彼女に水を差すことになるが、それでも言わなければならない。
「俺もその可能性を考えたが、どんな影響があるかも分からないんだぞ?」
インベントリの性能は未知数で、調べようがない。
そこに彼女を突っ込むようなことは簡単にできないんだ。
危険だと思える可能性がわずかにもあるんなら、そんな方法は試せない。




