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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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叶わぬ願いと

「これからどうするんだ?」


 星が降らんばかりの煌く夜空の下で、俺は女性に訊ねる。

 すると彼女は、どこか楽しげな表情で答えた。


「そうですね。

 しばらくはここでのんびりと過ごしてから、旅に出ようと思います」

「……そうか」


 その言葉に、やるせない気持ちになる。

 俺は彼女のために何もできないんだろうか。


「……やはり、ご存知なのですね」

「まぁ、なんとなく、だがな」

「いつからなのか、伺ってもよろしいでしょうか?」

「最初に逢った時から違和感を覚えていた。

 ヒトとは違った雰囲気を纏っていたからな」


 それに、彼女は一瞬のうちと言えるほどの刹那に現れたしな。

 あえて突っ込むことはしなかったが、恐らくはそうなんだろうと思っていた。


 そんな考えも読み取られたのか、それとも純粋に聞きたかっただけか。

 女性はこれまでと変わらないとても美しい笑顔のまま俺に訊ねた。


「ヒトではない私の依頼に、あなたはどうして応えて下さったのですか?」

「あなたの依頼は人探し。

 つまり、"想い人と逢いたい"と、俺たちは解釈した。

 俺たちには依頼を受ける理由なんて、それだけで十分だったよ。

 そんな大切で純粋な想いにも、俺は応えられていないんだが……」

「そんなことはありません。

 行動していただけただけで、私にはとても嬉しかったです。

 この場所を離れられない私には、叶わぬ願いと諦めていたことでしたので」


 ……叶わぬ願い。


 結局俺は、この人の願いを叶えてあげられなかったな。

 それどころか、このまま旅立たせてしまうことになるのか。


 ……本当に無力だな、俺は……。


「……逢いたいひとに逢えない辛さは、これでも知っているつもりなんだがな」

「……そう……でしたか……」


 考えていたことが思わず声に出てしまった。


 大人の女性ってのは苦手なんだよな。

 こちらの考えていることをすべて見透かされているような気がする。

 こんなところにも俺の弱点があったとは、さすがに考えもしなかったな。


 ついポロっと言葉にしたが、まぁ隠すようなことでもないし、別にいいか。


「あなたの大切な人は、今どちらに?」

「この世界ではない"別の世界"にいる」

「……そう、ですか……。

 では、私と同じですね」

「いや、正確には違う。

 俺は文字通り、こことは違う世界からこの世界に来たんだよ。

 だから元の世界に帰ることができれば、また逢うことができる」

「そうだったのですね。

 話には聞いていましたが、あなたは"迷い人"と呼ばれる方でしたか」


 迷い人……。

 俺の世界では違った意味を持つ"空人"よりも、確かにその言葉の方が合っているように思える。


「えらい迷惑な話だ。

 この世界のどことも分からない場所へ、一方的に放り出されたからな」

「そ、そういうものなのですか……。

 とてもご苦労されているのですね……」

「いい人達にも会えたから、そこまで気にはしてないけどな」

「そうですか」


 くすくすと笑う女性に釣られ、俺も自然と笑みがこぼれた。

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