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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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探し人

 エデルガルト教会は130年ほど前に火災で全焼したらしい。

 それを住民達がボランティアで再建を手伝い、以前よりも随分と荘厳で美しい教会になったとこの町では言われるようになった。


 教会の正確な場所を道行くおばあさんに訊ねるとこの話をしてくれたんだが、子供たちの意識はまったく別のところにあったようで上の空だった。


 眼前に佇む教会の、とても重厚に思える扉に付けられたドアノッカーを鳴らす。

 しばらくすると、教会の司祭と思われる優しい瞳を持つ高齢の男性が扉を開けて言葉にした。


「こんにちは。

 参拝をご希望ですか?」

「いえ、違います。

 13年前の立春、ここに来たフリートヘルム・ベーレンドルフ氏を探してます。

 その方を見つけてほしいとある女性から依頼を受け、冒険者ギルドに情報提供を求めた際にこちらを紹介された次第です」

「……フリートヘルム・ベーレンドルフさん……。

 ……そうですか。

 どうぞ、こちらにいらしてください。

 きっと彼も喜ばれると思います」


 目を丸くしながらも答える司祭は、とても嬉しそうな表情に見えた。



 *  *   



 教会の裏手にある、光が溢れながらも寂しい静けさに包まれた場所に彼はいた。

 案内をすると司祭は『少し席を外します』と言い残し、教会へ戻っていく。


「……こんな……こんな、ことって……」


 エルルはある一点を見つめながら聞こえないほど小さく言葉にするが、13年も前のことだし彼は冒険者だと聞いていた以上、その可能性を俺は考えていた。

 それでも、冷たく物言わぬ石碑しか残らない彼に思うところはある。


 小鳥のさえずりが聞こえる教会裏は光が差し込んでいて、とても暖かで。

 そうでありながらもどこか寂しく物悲しい気持ちにさせられるのは、ここがそういった人たちも眠る場所だと頭をよぎったからなのかもしれない。



 彼が幸せであったとは思えない。

 少なくとも、思い半ばで倒れる人が、無念を感じないわけがない。


 とても複雑な気持ちになっているんだろう。

 ここではない、どこか遠くを見つめているブランシェの頭に手を置き優しくなでていると、司祭が戻ってきたようだ。


「よろしければ、先ほど伺った女性のお話を詳しくお聞かせ願えませんか?」

「はい」


 詳細を話し始めると、司祭は辛そうな表情で瞳を閉じた。


 大切な約束。

 ふたりだけの時間。


 彼の想い。

 彼女の意思。


 彼は思い半ばに倒れ、そんな彼をひたすらに待ち続ける彼女に、何も感じない人がいるとは思えない。

 それは、神に仕えるという聖職者でなかったとしても、変わらないはずだ。


 俺の話を聞き終えた司祭は、一言『そうですか』と寂しげな声色で答えた。

 その表情は、悲しいと表現するには足りないほどの色が、はっきりと伺えるものだった。

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