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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
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冷や汗の止まらない推察

「お前の想像通りだ。

 あくまでも可能性、だが、アタシは確実だと思ってる。

 確証を掴めたわけでもないが、まず間違いないだろうな」

「……都市のどこかに、暗殺ギルドの本拠地がある可能性。

 少なくとも支部は存在する、ということですね」


 俺の問いに、彼女は一言『そうだ』と答えた。


 暗殺ギルド。

 その存在すら噂の範疇を超えることはない裏組織。

 情報を探ろうとした者は忽然と姿を消し、二度と戻ってくることはないという。


 そこに組織壊滅の糸口はあるが、そんな危険なことはできない。

 子供たちを抱えている俺にとって、指輪自体が面倒事でしかないんだ。


 ダメ元で彼女に指輪の処分を願い出るも、それはできないと即答された。


「トーヤの考えている通り、そいつは家柄を示すだけの道具じゃないはずだ。

 そんな重要なもんを取り返しにも来ず、捜索依頼も出されていない。

 となれば聡いお前のことだ、もうおおよその話は見えてくるだろう?」

「……暗殺ギルドと秘密裏に連絡を取り、奪い返す機会を伺っている……」


 冷や汗の止まらない推察だが、あながち間違ってはいないと彼女は言葉にした。

 ギルドマスターとしての立場を考えれば、町にいらぬ厄介事を入れたくない気持ちもないわけじゃないが、問題はその暗殺ギルドと関わりを持つことだ。


 下手をすれば、町の存続にも影響するほどの大きな被害を被りかねない。

 これまでに訪れた町のギルドマスターも含め、彼女は町の安寧を第一に考える。

 それは決して悪いことではないし、長としては正しい判断になるだろう。


 それでも続く彼女の言葉に嬉しさが込み上げてくる。

 手は貸せないが、できることはすると言ってくれているように思えた。


「目的が未だはっきりとしないが、子連れでどうこうできる問題じゃない。

 しかし推察の域を出ない以上、ギルドでお前らを保護をすることも難しい。

 当然、指輪を所持しているトーヤを貴族が探している可能性も捨てきれない。

 ……これまで尾行されたと感じたことはあるか?」

「バルヒェットで一度だけ。

 確かめてはいませんが、恐らく調査を専門にしている冒険者だと思っています。

 かなり卓越した技術で気配を絶ちながら周囲を伺っていました」

「……断定はできないが、そいつはルーナだろうな。

 バルヒェットを拠点に活動している信用のある冒険者だ。

 フィリーネの息がかかった人物だから問題はない」

「そうですか。

 懸念がひとつ消えました。

 ありがとうございます」


 やはりあの女性は冒険者だったか。

 格好から調査系依頼を生業にしていると思えたが、あんな屋根の上で、それも俺の死角から気配を消しながら周囲を探っていれば、威嚇のひとつも向けたくなる。

 少しだけ強めに威圧したが、敵対する意思を彼女は見せなかった。

 さすがに断定することは危険だが、それでも懸念していた問題が解決したか。


「それ以外でそういった気配を感じ取ったことはありませんが、今後は気づかないだけで見られている可能性を考慮しながら行動した方がいいかもしれませんね」

「だな。

 ……正直、影みたいなあいつに気づいただけでも凄まじいことなんだが、相手は暗殺ギルドの構成員、それも実行部隊と思われる暗殺者が見ている可能性もある。

 必要以上に警戒をした方がいいかもしれないな」


 ふかふかのソファーから立ち上がったローゼは執務机に戻り、何かを書き記した1枚の手紙を同封して俺に返した。


「こいつが何の役に立つのかも本音を言えば分からんが、それでも何かの役に立つことがあるかもしれない。

 適当にあしらうことしかアタシにはできないが、万が一、この町でそいつと遭遇した場合は深夜でもいい、ギルドに駆け込んで職員にアタシを叩き起こさせろ。

 可能な限り早急に対処すると約束する」

「感謝します」


 そう言葉にした俺に彼女は答えた。


「こんな中途半端にお前たちを追い返すアタシには、文句のひとつやふたつ投げつけていいんだぞ?」

「そんなことできませんよ。

 むしろ、これまで手に入らなかった情報が入りましたし、何よりもあなたのお気持ちは痛いほど伝わっていますから」


 その気持ちだけで十分だ。

 そう思えるような言葉を投げかけてくれた。

 内心では今にも俺たちに同行して護りたいと気配が伝えている。

 そこに悪く思うような度量の狭い心は持ち合わせていない。


 それがはっきりと伝わったのだろう。

 申し訳なさを表情に出しながら彼女は言葉にした。


「……悪いな、トーヤ。

 気をつけろよ?」

「はい。

 ありがとうございました」


 感謝を言葉にして俺たちは部屋を退室する。

 扉を閉める直前、彼女が再びもらした謝罪の言葉に嬉しく思いながら、受付がある1階へと足を進めた。

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