それを信じて
彼女の身長は俺よりも若干低い、170センチと少しはあるだろうか。
日焼けとも違う少々くすんだ肌に、腰まである濃い茶色の髪がさらりと流れる。
とても線の細い、どこか寂しさを感じさせる20代前半の大人の女性に思えた。
女性の話によると、13年ほど前にこの場所である男性と約束をしたそうだ。
残念ながらその辺りも記憶が曖昧で、正確なことまでは憶えていないらしい。
その男性はあるものを用意すると言い残して町へ向かい、それきりだという。
そこに俺は違う可能性を考えさせられるが、それも女性は考慮してるようだ。
だが別れ際の笑顔と揺らぎのない言葉に、女性は今もこの場所を離れられずに待ち続けていると話した。
それを信じて、長い年月をこの寂しいと思えるような誰もいない場所に留まり続ける女性に苦笑いしか出ないが、待っている日々も苦ではなかったと言葉にする彼女の表情は楽しそうに見えた。
「ですが、そろそろここを離れなければなりません」
「その前に男性を探してほしいと?」
「はい。
もう一度、ひと目だけでも逢えたらと思いまして」
とても綺麗な笑顔で女性は言葉を返した。
まだ依頼を受けるとは言っていないんだが……。
俺は子供たちに視線を向けて意見を聞くが、答えはもう出てるみたいだな。
「さて、どうする?」
「賛成! あたしたちで見つけてあげよう!」
「ふらびいもさんせい。
おねえちゃんのために、がんばりたい」
「ごしゅじんが行くならどこでもいいよー」
賛成2、どちらでもないが1か。
最初から気になっていたことだが、そろそろ突っ込んだ方がいいだろうか。
「その"ごしゅじん"ってのは、やめてもらえないか?」
「なんで?」
「色々と体裁ってのがあるんだよ。
まるで従事に属してるみたいだし、良くない見方を人からされるからな」
「ふーん? そういうものなんだ?」
「ああ」
「でもやだ! ごしゅじんはアタシのごしゅじんだもん!」
あぁ、笑顔でそう言われるだろうなって、話の途中から思ってたよ……。
これは色々と町じゃ苦労しそうな予感しかしないな……。
やはりこの子はオオカミじゃなくて、本当にわんこなんじゃないだろうか。
いや、狼もイヌ科だっていうし、ある意味ではどっちもそう変わらないのか?
微妙な気持ちで考えごとをしていた俺の耳に、女性の笑い声が届いた。
「大変ですね、お父さんは」
「そう言われるのは二度目だな……」
「でも、悪い気はしないのでしょう?」
「そうだな」
自然と笑みが出た。
純粋に慕ってくれることに悪く思ったりはしない。
むしろ、この子たちといられることに感謝をしたいところだな。




