表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第九章 空に掲げた手
261/700

元いた世界にいるんだ

 地面に虚しく落ちたフリスビーの音が耳に届いた頃、ふたりが起き出した。


「……うーん、なんの騒ぎー?」

「……ふわぁぁ」

「うるさくしてごめんな。

 もう大丈夫だから、ふたりは寝てていいよ」

「……そうだね……そうする……」


 ぽふりと頭を俺の体に寄せるふたり。

 だがすぐにエルルは目を見開きながら飛び起き、問題の子に視線を向けて声をあげた。


「――うわっ!? ブランシェすごくおっきくなってる!」

「わぁ、すっごいおおきい……」

「……そうだな、かなりでかくなってるな……」


 首をかしげるブランシェだが、その大きさはもはや大狼と言われるほどの成長を遂げているようだ。

 それも精悍とまではいかないが、その顔立ちは一気に狼へ寄りつつある。

 これは文字通り大人へと向かう、その途上って意味なんだろうな。


 大きさは1メートル50センチほどか。

 急激に成長した理由は魔法の体得からか?

 それとも何か他に要因があるんだろうか。


 しかし、フラヴィは人の姿になったきりで幼いままだ。

 あれから色々と修練に励んでいるし、魔法も体得している。


 ……にもかかわらず、ブランシェだけ成長し続けているところを考えると、この子にあってフラヴィにないものを学んだか、それとも俺の思いも寄らないような現象が起きているのか。


 それぞれ個性もあるんだから、その成長の仕方も違うものなのかもしれないな。

 フラヴィはフェンリル種とは違い、戦闘に特化していないピングイーン属だ。

 成長速度に差があっても何ら不思議なことではないが……。



 しょぼくれるブランシェに思うところがないわけじゃない。

 それでも俺はこの子と番いになれない理由がある。

 それをしっかりと伝えるべきだろうな。


「ブランシェ、おいで」

「わぅッ!」

「番いになるって意味じゃないからな?」

「――わぅッ!?」


 これでもかと瞳を輝かせ、俺の一声で涙目になってしょぼくれた。

 可哀想だとは思うがこれはとても大切なことだし、下手な嘘をつけばこの子自身を深く傷つけることになる。

 涙目の子を優しくなで、瞳を見ながらしっかりと諭すように話を始めた。


「俺はブランシェの親代わりだ。

 ブランディーヌにブランシェをしっかり育てると誓ってるし、俺にはブランシェを番いにしたいような特別な女の子としては見られないよ。

 それにな、俺にはとても大切なひとが、元いた世界にいるんだ。

 そのひとは俺にとって本当に大切なひとで、俺のすべてなんだよ。

 だからブランシェと番いになれば、そのひとへの気持ちを裏切ることになる。

 今はまだ分かってもらえないかもしれないけど、それだけはできないんだ」

「……ゎぅ……」


 声にならないほど小さな言葉がブランシェからあふれた。

 耳までへにょりと下げた姿に、心から申し訳なく思う。


 けど、俺の気持ちはブランシェに伝わったはずだ。

 抑え切れなかった欲情は落ち着きを見せ、しょんぼりとした気持ちだけがこの子に残っているようだ。

 まるで怒られているようにもこの子には感じるのかもしれないが、それは決してブランシェが嫌いだから拒絶したんじゃないことだけはしっかりと説明した。


「そう簡単に納得できるような気持ちじゃないと思うけど、それでも俺にはブランシェが大切な子供みたいにしか思えないんだよ」


 とても悲しい気持ちが心に伝わってくる。


 ごめんな、ブランシェ。

 気持ちは嬉しいけど、俺にはそう答えることしかできないんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ