何してるんだ
そう思っていた昨日の自分を蹴り飛ばしてやりたい。
いや、確かに今回起きた事件も可能性のひとつとして考慮はしていたが、それでも俺が想像していたもの以上の出来事が夜中に起こっていた。
未だ何が起きているのか、気がついていない間抜けな俺がいる。
時刻は体感で深夜3時といったところだろうか。
それに気がついたのも、この件が落ち着いてからになるが。
今まで感じたこともない妙な気配に目覚めた俺は、浅い森に降り注ぐような月明かりに照らされた少女に思わず眉をひそめた。
こちらではないどこか遠くの場所を見つめているようにも思えるとろんとした瞳は熱を帯び、またがるように俺の上に乗る全裸の少女は言葉を発することなく俺に熱い視線を送り続ける。
白く華奢にも思える線の細い体と、肩まで伸びた美しい銀糸のような白銀の髪がさらりと風に揺れ、月光が降り注ぐ見通しの悪くない森はとても神秘的でありながらもそうは感じさせない違和感だらけの出来事に、俺は寄せた眉を戻せずにいた。
頭に乗せた白銀の耳と、足をふわりとなでるように触れる尾。
それでなくとも良く似た状況を一度体験している俺にとって、眼前にいる子が誰なのかは間違いようもない。
普段胸で眠ってるはずのフラヴィが左腕にいることから、恐らくはこの子が移動させたんだろうな。
眠る場所を移動されても起きなかったフラヴィに思うところはあるが、相手が相手だけに目が覚めなかったのかもしれない。
だがそれを考慮したとしても、現状で起こってる事態を無視できなかった。
「……で、何してるんだ?」
呆れた様子で俺は短く言葉にする。
少女は恍惚とした表情のまま答えた。
こちらを見つめる白銀の瞳はとても美しいが、その小さな唇から発せられたものは俺を強い疲労感で満たしてしまうほどだった。
「……アタシとツガイになろ? ごしゅじん……」
「……はぁぁ……」
魂まで抜け出てしまいそうな深いため息が自然ともれた。
大方そうだろうと予想できる瞳と気配をしていたし、正直なところ俺の懸念が的中した形になる。
それにしても、空人ってのはまともなスキルを持てないんじゃないだろうか。
そんな不安が脳裏をよぎったが、なまじ笑えない俺がいる。
とはいえ、まずはこの状況を何とかしなければならないな。
「とりあえず、下りてもらえるか?」
「やだ。
ツガイになりたい」
「俺は番いになる気はないし、その気も起きない」
だが、そんな言葉ではこの子には通じないようだ。
中途半端に体だけ大きくなったみたいだな。
欲情をまったく抑え切れていない。
いや、ある意味では動物的な本能としては正しいか。
初めてあふれた感情の制御ができず、暴走しているだけかもしれないな。
「……どうして?
アタシ、もうオトナだよ?
ごしゅじんはアタシが嫌いなの?」
「そうじゃないし、その理由を示すならこうだな」
インベントリからあるものを放り投げる。
全裸で身体を摺り寄せていた少女はそれに飛びつき、昨夜と同じ姿になった。
木製のフリスビーを嬉しそうに咥える子に、俺は短く言葉にした。
「な?」
「わぅッ!?」
咥えていたフリスビーを口から放し、涙目になるブランシェの声が耳に届いた。
 




