信頼できる武器
思わぬところで大金持ちとなってしまった。
銀貨と銅貨を分け終え、所持金は193万700ベルツ。
これは、いち高校生が持つにはあまりにも多いと言えるだろう。
「金はあって困るもんじゃないぞ」
どうやら表情にはっきりと出ていたらしい。
そうディートリヒは笑いながら話すが、それでも総額に抵抗感がある。
それもこの国で使われている硬貨を優先して渡してもらえたので、申し訳なさすら感じる。
「トーヤはこの世界に来たばかりだし、俺達はわりと活躍してる冒険者だからな。
両替商に馴染みもあるから通常よりも融通してくれる。気にしなくていいぞ」
それは金銭的な意味じゃなく、酒を奢って貰ったりといった意味らしい。
どうにも殺伐としたことがあったせいか、想像すると不思議な光景に思えた。
「硬貨はいいが、武器はどうする?
俺らには不要のものだし、全部トーヤが持ってくか?」
「これもそれなりの値段で売れるんじゃないですか?
なら、その金額分を硬貨から差し引いて下さい」
「いや、大丈夫だぞ。元々ろくに手入れもされてない放置された武器だからな」
「僕の弓も、これで中々の良品なんですよ。
これ以上となると、特注しなければいいものは手に入らないかもしれませんね」
「私のメイスは友人から譲り受けたもので、かなりの名品なんですよ」
冒険者が引退した際、エックハルトのように譲ってもらえることもあるそうだ。
思い入れの品ではあるがそれ以上にかなりの業物で、これ以上いいメイスとなると相当の大金になってしまうと、彼はどこか遠い目で話した。
「武器ってのは、毎日手入れをして万全の状態を保つのが当たり前なんだ。
いざって時に切れ味が悪くて使えないんじゃ意味がないからな。
そこに一流と二流の差が出るって、俺を鍛えてくれた先生が言ってたよ。
パッと見た感じじゃ普通に売ってる武器をそのまま放置してたみたいだし、使うには研いだ方がいいだろうな。あのままじゃ大した値段で売れないと思うから、全部トーヤが持っていっていいぞ。
まぁ、ずぼらなフランツでさえしっかりと手入れをしてるから、誰にだってできることのはずなんだが、そんな当たり前のこともできない奴が世の中にはいるってことだな」
「……ずぼらは余計だぞ、ディート……」
「悪い悪い」
半目のフランツに全員が楽しそうに笑っていた。
俺もそんな彼らの仲の良さに自然と笑みがこぼれた。
「それじゃあ、遠慮なくいただきますね」
「あー、そうだ。ついでに貸した剣もトーヤにやるぞ。
使い勝手が悪けりゃ別の武器までの繋ぎでいいが、それでも結構いい武器だから信頼していい」
「ありがとうございます。
この剣はとても扱いやすいので、これを使わせてもらおうと思います」
ゴブリン戦で借りたディートリヒの剣は少々重いと感じた。
フランツの持っていた剣は、軽さと耐久性を重視した合金製らしい。
「丈夫さはあるが、その分切れ味を抑えてある。
そんじょそこらの硬い物なら切れるから、長く使えると思うぞ」
「俺の剣は重さで叩き斬るような武器にしてるんだ。
トーヤとの相性はあまり良くないのかもしれないな」
「色々試そうと思っていたので、正直助かりますよ」
「試すって、何かすごいことでもするのか?」
目が点になっているフランツに、そういう意味じゃないことを伝えた。
腰に携えてるロングソードはとても使いやすいが、これ以上に合っている武器を探したいだけだと彼らに話した。
単純に扱いやすさを知るためなので、何か特殊なことをするつもりはない。
「そ、そうか。
……なんで俺は、こんなに残念な気持ちを感じるんだろうな……」
「異世界の技術だからだろうか。
トーヤの技術は、俺達にはこの世界じゃ教わらない秘術に聞こえるんだよな」
「確かに。トーヤさんの技術は見てるだけでも興味深いですよね」
「それを体得するのはかなり難しいでしょうが、もし叶えば今よりもずっと強くなれますから、とても魅力的に見えてしまうのかもしれませんね」
なんだか照れくさくも感じる空気の中、他のアイテムを回収する。
宝石の類は町で買い取ってもらい、その場で報酬を分けることにした。
鉱石は様々あるが、先に言ったようにまともな値段で売れるルートがない。
武具屋に持ち込んでも加工素材として受け取ることはないそうだ。
魔物から手に入る素材とは違い、出所不明の鉱石は盗品として扱われる。
これは流通経路を荒らさせないためや犯罪者を増やさないためで、世界中で決められたことなのだとか。
他にも理由があると思うが、ディートリヒ達は知らないと話した。
しかし、鉱石は鉱石だ。
盗品扱いされようとも使い道がないとは言い切れない。
廃棄するくらいなら、何か有効利用できる時まで眠らせることにした。
幸いインベントリにも入りきったようだし、特にデメリットも感じないからな。
「正直、鉱石は武具か装飾品の製作くらいにしか使わないだろうし、そういった技術でも習わなければ必要になることはないと思うぞ」
「ま、いらなきゃ捨てりゃいいさ。
インベントリっつっても無限に入れらんないだろうしな」
「それを確かめる術は、限界まで入れてみなければ分からないかもしれませんね」
「いえ、単純に水を入れるだけで容量は分かると思いますよ」
俺の言葉で面白いように固まる4人。
しばらくの時間を挟んでディートリヒは半目で尋ねた。
「……まさかとは思うが、湖の水でも入れるつもりか?」
「確かめるならそれが一番手っ取り早いでしょうね。海という手もありますが」
半分冗談で答えたつもりが、どうやら伝わらなかったらしい。
エックハルト以外から白い目で見られた。
そんな彼も、何とも言えない苦笑いをしていたが。