花を咲かせる大樹
食後にお茶を飲みながらまったりしてると、バルテルから興味深い話が聞けた。
「そういえば、トーヤさんはご存知ですかな?
ここから西北西にある浅い森を3日ほど真西に進んでいくと視界が開けた場所に出るのですが、そこにはとても美しい花を咲かせる見事な大樹があるのです。
もうかれこれ10年ほど前の話になりますか。
採集目的で森を捜し歩いている最中、偶然に見つけた場所なんですよ。
忙しくてそれきりではありますが、来年こそ行きたいものですなぁ」
「へぇ、大樹に咲かせる花なんて、中々良さそうだな。
……というか、商人ってのは休暇も取れないくらい忙しいんだな……」
「私としては、お客様のご要望になるべくお答えしているだけなんですがね」
笑いながら答えるバルテルだが、それを実践するのは難しいはずだ。
良心的な商売をしようと心がけても、それをし続けるには並大抵の努力じゃ実現できないだろう。
そういったところからも、彼の人となりが分かるような気がした。
とはいえ、大樹に咲かせる花に興味が戻る。
俺も花は嫌いじゃないし、見ているだけでも心が安らぐ。
それも木に咲く花は、その大きさも相まってかなり綺麗に思える。
家族も花好きだったし、思えば家のあちこちに花瓶が置かれていたな。
「それで、どんな花なんだ?」
「恥ずかしながら、花には詳しくないので私には分からないんです。
ちょうど春ですし、美しく咲かせた大樹を一度はご覧になられては?」
あまり深く考えずに話をしているんだろう。
もっともだと思える言葉が彼の真横から飛び出した。
「浅いとはいえ、ふたりも子供を連れてあの森に入れってか?」
「あぁ! そうでしたね!
これは大変失礼しました!」
「まぁ、不思議とトーヤには安心感を強く覚えるし、子供連れでも無事に行って何事もなく帰ってきそうだけどな」
「違いねぇ!」
そう言葉にして、彼らは声を出して笑った。
嫌味のない爽快さを感じさせるのは、彼らの人徳なんだろうな。
冒険者の半分は気難しい連中だと聞くが、残りはとても気さくな人が多いとこれまでの旅で学んだ。
彼らもそんな清々しさを感じさせるような冒険者たちなんだろうな。
* *
「それじゃトーヤ、俺たちは先に行くぞ」
「あぁ、楽しかったよ」
「俺たちもだ。
だが、本当にいいのか?
馬車にはまだ乗れるし、町まで歩くなら数日はかかるぞ?」
「無茶をするつもりはないし、大丈夫だ」
ここでも心配をされたが、それも仕方のないことだ。
だがもう少しこの子達の修練をしたいところだし、このまま歩いて町を目指す。
この子達の習熟速度を考えると、あと一歩でみんなの強さが安定すると思えた。
それには町の外での経験が必要になるから、このまま徒歩で進む方がいい。
4人が心から心配をしてくれているのは分かるが、俺達にはやるべきことがあるし、それを優先させてもらおう。
「……では、我々はこれで失礼しますね。
私は中央寄りの西通りに"レッケブッシュ雑貨店"を構えております。
よろしければご来店ください」
「お、なんだ? ちゃっかり宣伝か?
ぼったくられるなよ、トーヤ!」
「茶化さないでくださいよ」
「わーってるって。
トーヤたちが心配なんだろ?」
ロータルからはっきりと言葉にされ、苦笑いをするバルテルだった。
本当にいい人たちに巡り会えてるな、俺は。
これまですれ違ってきた人も、同じようなことを考えていたのかもしれない。
そう考えると、申し訳なく思えてくる。
軽はずみな行動は慎むべきなんだろうな。
「ありがとう、みんな。
町に着いたらお邪魔させてもらうよ。
といってものんびり歩いていくから、いつ着くのかもわからないが」
「今回の仕事でしばらくは稼業も休むからな。
こっちは気にせずにのんびり目指すといいさ。
ブロスフェルトに着いたら飯でも食おうぜ!」
ロータルは意味深な発言をするが、特に深い事情はないようだ。
なんでも最近は連続して依頼を受ける日々が続いてたらしい。
そのどれもが彼らにとっては美味しい依頼で、稼ぎ時だったと楽しげに話した。
「なんせ特殊な薬草の採取依頼なんてのは、見つけるだけでも骨が折れるからな。
そういった場所を知ってるからこそ、俺たちゃ冒険者をやってけんのさ!」
「まぁ、収集系の依頼を専門にするってんなら、それくらいは分かってないとな」
「俺たちには俺たちの"仕入れ先"ってのがあるからな」
なるほどと、思わず相槌を打つ。
群生する場所も植物によって様々だ。
知識がなければ見つけるのも一苦労だろう。
何よりも、自分の足でそれらを探す必要がある。
収集系依頼を専門に扱う冒険者ってのは、そういう知識と経験も自ら学んでいくものなんだな。




