必ずといっていいほど
町と町を繋ぐ街道は森や林とは違い、遭遇する魔物も少なく安全に進める。
林や森、平原から街道に寄ってくる魔物がいないことを考えると、もしかしたら魔物自身が進路上にいれば危険だと判断してるのかもしれない。
この周辺は西側に浅い森こそ続くが、それ以外は街道と平原になっている。
だから大丈夫だと言い切れることではないんだが、魔物の強さを考えれば比較的安全に修練をしながら次の町を目指せるだろう。
見通しのいい街道を進んでいると当然のように商人や乗合馬車と出会うが、必ずといっていいほど声をかけられ、そのほとんどが同じような言葉をかけてくれた。
「……本当に大丈夫なのかい?
席は空いているから遠慮なく乗っていいんだよ?
馬車でも町まで2日は着かないし、料金だって半額以下でかまわないよ?」
「ありがとう。
でも大丈夫だ。
気にしないで進んでくれ」
「…………そこまで言うなら先に進ませてもらうけど、どうか気をつけて」
「あぁ、気遣いに感謝する」
御者だけではなく、時には親身になって心配してくれる護衛冒険者も少なくはなかった。
それも当然だ。
子供を連れて街道を歩くやつなんて、この世界にはまずいないだろう。
バルヒェットを出たあとも、しばらくはそこに気づけなかった俺が悪い。
とはいえ、街道を避けて町を目指すルートはかなりの危険をともなう。
何がいるかも分からない森や林を進むには、もう少し鍛錬を続けさせたい。
それもあと一歩といったところまで強くなっていると俺には思えるから、そうなったら今度は逆に街道を避けて通る方がいい訓練になる。
深くて視界の悪い森でもなければ問題にはならないだろう。
馬車が遠くまで進んだのを確認したエルルは、元気に声を出した。
「それじゃ修練を続けよっか!」
「うんっ」
「わうっ」
しっかりとお姉さんをしてくれているこの子と、元気に答えるふたりに微笑みながら、俺たちは再び修練に戻った。
この子達は根がとても真面目だ。
それに自分達には何が足りないのかをしっかり理解している。
3人の動きにその変化をはっきりと感じられたことが嬉しく思えた。
その甲斐もあり、周囲警戒を疎かにすることなく俺は自分の力と向き合えた。
保留にしてきた闇属性魔法についてこれまで考え続けたが、どうやらこの特殊な属性には無限大の可能性が秘められているようだ。
マナを手元に出し、黒い影のようなものを自在に操ることから修練を始めたが、この力は思っていた以上に文字通りの万能スキルなのかもしれない。
エルルではないが、俺もある意味では魔法に対する適正があるのか?
そう思わせるスキルの入手が続く中、丁度いい的が察知範囲に引っかかった。
視線を手元から変えずに子供たちへそれを伝えた。
「190メートル先に単独のボアがいるな」
「え?
……うわ、あんなに遠くのまでトーヤは分かっちゃうの?」
「修練を続ければみんなも気配の範囲は伸びていくよ。
上達していくと、戦闘中にもこれは違う効果を見せるようになる」
「あ、それ、なんかわかるかも。
周囲の状況もわかっちゃうんだよね?
相手の攻撃をしっかりと見極めたり、隙を見つけたりもできるんでしょ?」
「その通りだ。
この力は何も気配を察知できるだけじゃない。
それは初歩的な効果を見せているにすぎないんだ。
これも"静"と"動"と同じで、極めれば奥義にまで昇華できる」
「なんかそれかっこいいかも!」
瞳を輝かせるエルルだが、さすがにこれを高めるのは相当の努力が必要だ。
俺も手にするには数年かかった技術だし、頭の固いやつはそれじゃ済まないくらいの鍛錬が必要になると父は言っていた。
当然、こんな凄まじい技術を誰彼かまわず習わせたりはしない。
そういった見極めがしっかりとできるからこそ他人に教えられる"師範代"になれるわけだが、まぁこれについてはこの子たちに話すこともないな。
必要なのは研ぎ澄ませた集中力と気負うことのない精神力。
この技術は心技体のうち、心と技を同時に磨くことができる。
それだけではない。
この技術を学ぶことでこの子たち自身も互いに高め合える。
気配を見極め、相手の隙に攻撃を狙い、迫る危機を回避する。
これを3人で繰り返すことで、膨大な経験を積めるんだ。
ある意味ではこれを学んでいるだけでも十分に強くなれる。
気配察知とは、そういった力でもあるんだ。
敵の誤字ではなく、的です。
私なら普通にあるミスなのですが、今回は違います。




