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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第二章 後悔しないのか
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流通貨幣

 その他にも大量の硬貨があった。

 ベルツ硬貨、グラネ硬貨、カーク硬貨、グリン硬貨。

 そのどれもに銅貨、銀貨、金貨が乱雑に転がっているようだ。


 インベントリ内で自動仕分けされ、俺には下一桁まで枚数が確認できる。

 しかしこれをすべて並べ替えながら数えて確認するとなると気が遠くなる。


 商人ってのは当たり前のようにこれらを勘定するんだろうな。

 正直、俺には難しいと思えてならなかった。



 この国で扱われているのはベルツ硬貨。

 それ以外は周辺国で使われている貨幣で、この国の硬貨に替えることで使えるようになる。

 話のついでに両替所と利用法も聞いておいた。


 しかし逆に言うと、両替しなければ他国の通貨は使えない。

 商人同士なら取引も可能らしいが、彼らのやり方があるのだろう。

 本気で商売をするなら、商業ギルドで学んだ方がいいかもしれないな。


 国によって法律と貨幣の違いはあれど、おおよそ同じ価値を持つ。

 当然、細かく言えば物価も変わるので、全く同じとは言いがたいが。

 それでも単純計算で日本円にすると、小金貨1枚が10万円相当の価値になる。


 小金貨とは一般的に使われている金貨の総称だが、そもそも金貨を料理屋で出そうものなら嫌な顔をされるか、受け取れないと言われるかのどちらかのようだ。

 それは100円の代金を1万円札で出すような感覚ではなく、金貨で支払うこと自体が非常識と言われている。

 両替して銀貨へ戻さないといけない手間があるため、必要になる手数料を合わせて考えると嫌な顔をされてしまうのも仕方がないだろうな。


 硬貨は鉄貨、銅貨、銀貨、大銀貨、小金貨、大金貨と価値が上がっていく。

 鉄貨から10、100、1000と桁が変わり、大金貨が100万円の価値。


 通貨単位はその国で使われている貨幣のまま呼ばれる。

 1580ベルツの支払いに銀貨2枚か、銀貨1枚と銅貨6枚を出す。

 鉄貨を158枚出すのは非常識と言われている行為のようだ。


 銀貨2枚と鉄貨8枚を出すことも一般的にはされない。

 こういった金の出し方は日本人特有だって聞いたことがあるし、あまりしない方がいいのかもしれないな。


 残念ながら紙幣はどの国も造っていないようで、じゃらじゃらと硬貨を持ち歩くのがこの世界では当たり前なんだとか。

 その代わり硬貨は、かなり軽くなるような魔法付与がされているらしい。


「偽造しようとすれば砂に変わるって話だぞ」

「もしかしたら貨幣も神様が創った物なのかもな」

「僕も硬貨はアーティファクトなのかもしれないと思ったことがあります」

「とても興味深いお話ですが、私達がそれを知るには国の中枢へ行かねば難しいでしょうね」

「ま、俺らにゃ縁のない話だな」


 フランツは笑いながら話すが、大層なドル袋を持ち歩いていることが盗賊を生み出してる要因なんじゃないかとも思えた。

 実際にはそう単純な話じゃないんだろうけどな。



 そして今回手に入った金貨は以下になる。

 ベルツ金貨35枚、グラネ金貨25枚、カーク金貨12枚、グリン金貨14枚。

 つまり、この世界に来てすぐ86枚もの小金貨を手にしてしまった。


 枚数も合わせて彼らに話すと、驚いた表情で答えた。


「本当にすげぇんだな、ユニークスキルってのは……っていうか便利だな……」

「確かに爺ちゃん婆ちゃんの言っていた通りみたいだな」

「ですね。僕が空人でも名乗れないでしょうね」

「物も運べるのですから、トーヤさんは商人に向いているのかもしれませんね」

「……いえ、驚くのはそこじゃないと思うんですが……」


 どこか間の抜けた会話を続けるディートリヒ達だった。


「こんな大金、どうしましょうか?」

「んぁ? ……あぁ、そっちか」

「そっちかって……。金貨86枚ですよ? 銀貨だってたくさんあるんですよ?

 俺の世界じゃ銅貨5枚もあればしっかりと一食が取れるので、かなりの大金だと思うんですけど……」

「そういうところは子供っぽくて、なんかホッとするな」

「ですね。何だか僕も安心できました」


 なんだ、この金銭感覚の違いは。

 俺が間違ってるんだろうか。


 そう思わずにはいられない俺に、フランツ達は真顔で話した。


「なぁトーヤ。俺達は命懸けで盗賊団をぶっ飛ばしたんだ。

 それは誰にでもできることじゃない。俺達だって死んでたかもしれない。

 そういったことを考えれば、小金貨86枚ってのはそれほど高くないんだよ」

「今回はトーヤがいてくれたお蔭で何とか捕縛することができた。

 でもな、もしお前と出会っていなければ、どうなっていたか分からない。

 こいつの言うように金額に見合った依頼じゃないんだよ、盗賊団捕縛ってのは」

「今回は僕達にも戦う理由があって受けましたが、正直もう関わりたくないです」

「我々は我々にあった依頼を受け、気ままに冒険することを望んでいますからね」


 ……確かに、みんなの言う通りかもしれない。

 命を懸ける以上、奪われる可能性だって十分あった。

 今回は相手が馬鹿だったから助かったものの、次はどうなるか分からない。

 むしろ、こういった連中はあまり相手にしない方がいいんだろうな。


 だとしても、金貨だけで860万円ってのはちょっと多すぎる気がする。

 まだ銀貨も銅貨もあるんだが……。


「んじゃ、金は仲良く山分け。

 功績を考えて、トーヤには好きなもんを持ってってもらうってことでいいか?」

「あぁ、いいぞ」

「異論ありません」

「私もそれで構いません。

 あ、ロザリオなど教会に関係した物は優先していただきたく思います。

 当然、一般的なものに限ってで構いませんので」


 エックハルトいわく、教会関係者が持つロザリオには数字が彫られていて、誰の持ち物なのかを調べることができるらしい。

 それはつまり認識票のようなもので、用途もそういったこととして使われるのだと、彼は寂しそうな笑顔で答えた。


 あぁ、本当にこの世界は優しくないんだな。

 俺にはそう思えてならなかった。

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