複雑な心境に
距離をあけ、フラヴィと向き合うエルル。
瞳を閉じながら何かぶつぶつと小声で言葉にしているようだが、力の加減に全神経を張り巡らせているんだろう。
妹に向かって放たなければならないんだから、それも当たり前かもしれないが。
対照的にフラヴィはとても自然体でダガーを構えていた。
どうやらこの子はすでに"静"を体得し、己がものにしているようだな。
やはり俺の持つ技術がこの子に伝わっている。
とても不思議な感覚だがこれは悪いことではない。
俺が予想していた以上の力強さをフラヴィに感じた。
あとは実戦経験を積ませるだけでもどんどん強くなるだろう。
それを確信するだけのものをこの子は持っていた。
「よし、それじゃ、いくよ?
威力は抑えるけど、危ないと思ったらすぐ逃げてね?」
「うんっ」
「"小さな火の衝撃"!」
……さらに新しい魔法を編み出したのか。
"炎の衝撃"よりもかなり弱い力を感じる。
相当抑えて魔法を発動したんだろう。
それほど強い気配をまとってはいなかった。
速度は先ほど見たものと同じだが、完成度はより向上していた。
恐らくは無意識で魔法の質を高めたんだと思える。
マナの荒い部分がかなり小さく、見つけにくい魔法として発動できたようだ。
「えいっ」
躊躇なく飛び込むフラヴィ。
ダガーを魔法壁のある一点に衝き立て、完成度の高い魔法を霧散させた。
「できたっ」
「えぇぇ……」
嬉しさのあまり両手を挙げて喜ぶフラヴィ。
逆にエルルはガックリと地面に両手と膝をついた。
その光景に褒めていいのか、慰めていいのか分からない俺がいる。
どちらもするべきだし、それはしっかりとするつもりだ。
しかし、こうも簡単に魔法を霧散させられると、複雑な心境になる。
……あぁ、そうか。
ディートリヒたちもこんな気持ちだったのか。
今更ながらに気づいた気がする……。
「……お姉さんとしての威厳が……」
「だいじょうぶ? えるるおねえちゃん」
「うん、大丈夫。
ちょっとショックだけど、フラヴィはすごいね」
立ち上がったエルルは笑顔でフラヴィの頭を優しくなでる。
くすぐったそうに嬉しがるこの子もまた、特殊な才覚を持っているようだ。
「ふたりともすごかったよ。
まだ2回目なのにあの完成度の魔法は相当すごいぞ。
マナの粗も小さなものだったし、修練を続ければ粗がなくなるかもしれない。
その小さな穴を貫いたフラヴィも、見事としか言えないよ」
「えへへ、ぱーぱにほめられた」
満面の笑みを見せるフラヴィだが、見極めるだけでも難しい弱点を冷静に見つけ、正確にその一点をダガーで衝き立てた技術は感嘆することしかできない。
いや、驚異的身体能力とも言えるだろうな。
トテトテと歩いていたフラヴィからは想像もつかない技術力だ。
底が知れないほどの強さをこの子の内側から感じる。
身体能力の高さがここにきて活かされているのか?
あくまでもピングイーン属限定の話ではあるらしいが、それでもこの子たちフィヨ種の潜在能力は未知数なのかもしれないな。
成長して大人の姿になれば、圧倒的な強さを手にする可能性が見えた。
それは俺なんかよりも遙かに強い、何よりも優しい子になるだろう。
そんなフラヴィの姿を、俺はどこか確信できた気がする。




