最高のお宝
「……わぁ!」
「これは――」
箱の蓋を開け、中を確認する。
入っていたのは手紙や人形、おもちゃの剣といったものだ。
自然と頬を緩ませながら、手紙の内容に目を通した。
そこに書かれているものは想像に難くない。
箱一杯に入れられたそれらを見ていると、フラヴィが強く声をあげた。
「ぱ、ぱーぱ!」
「どうした?」
俺の腕に抱きつきながらも、フラヴィはある一点を指さしていた。
そこには埃にまみれたベッドに横たわる男性と思われる躯。
一冊の書物を大切そうに抱え込みながら眠りに就く、ひとりの亡骸だった。
「……ルートヴィヒ・ユーベルヴェークか」
その表情はどこか安らぎに満ちたものに見えた。
彼に近づき、抱きしめるように抱えている本へ手を伸ばす。
「済まないが、読ませてもらうよ」
自然と一声かけたことに我ながら驚くも、書かれた内容を確認する。
その文字は古代語ではなく、現在でもこの国で使われる常用語だった。
そこに記されたものも、どうやら俺の想像通りのようだ。
200年前、この国の豪商から金品を強奪した大盗賊と呼ばれていたが、そのすべてが不正に搾取していた悪党どもから巻き上げたものだった。
それは手紙や可愛らしい人形などからも想像できたことだが、どうやらこの日記に記されているように、財宝のすべてはこの国の貧しい民に使われたらしい。
彼は義賊だ。
悪党からしか窃盗をしていなかったようだし、何よりも誰一人として傷つけることなくやり遂げたと自慢げに書かれていた。
しかし武勇伝の最後は必ず助けた人たちの話で締めくくっている。
俺にはそれが、光溢れる優しい言葉に思えてならなかった。
ルートヴィヒという人物は、誰かの笑顔や、ありがとうと言ってもらえることが何よりも嬉しかったようだ。
ここに残されたものはすべてお礼としてもらった、彼にとっては何ものにも勝る大切なものだと、まるでこの日記を誰かに読んでもらうことを前提に書かれているように思えた。
「……そっか。
この人は、誰かの笑顔のために行動していたんだね」
「そうだな。
……確かに盗みを働くのは悪いことだ。
だがそれも、盗まれた相手と盗んだ物を何に使ったかで変わってくる。
ここに残されたものがそれを証明していると、俺は思うよ」
箱から溢れんばかりのお礼の品に心が温かくなる。
彼はきっと後悔なんて微塵もなくこの世を去ったんだろうな。
これだけの"想い"に囲まれながら、彼は温かい気持ちで旅立ったんだろう。
「……十数億ベルツどころじゃない、"最高のお宝"だったな」
「うん、そうだね。
こんなに素敵な宝物、あたしは見たことがないよ」
「かわいいおにんぎょう、いっぱい。
やさしいおてがみも、こんなにたくさん。
なんだかふらびいもあったかくなる」
「わぅわぅ、わぅ?」
「おたからどうするのって、ぶらんしぇいってるよ」
右手側に寄り、俺を見上げるブランシェの頭を優しくなでながら答えた。
「どうもしないよ。
これは、ルートヴィヒの大切な"お宝"だ。
俺達が持ち出していいものじゃないんだよ」
優しい声色が自然と笑顔で出た。
その想いもみんなに伝わったんだろう。
こんなにも温かな気配が子供たちから感じられるんだから。