それ以上の価値
周囲を見回し、罠を確認しながら慎重に中へ入る。
あまり生活感のない部屋だが、恐らくはここを拠点としていたのかもしれない。
そう思わせるような本棚や燭台、テーブルや椅子などが置かれていた。
残念ながら書物はぼろぼろで読めるような状態ではなかったが、部屋の左隅に大きな木製の箱を見つけた。
「……おっきな箱。
全員が入れそうなくらい大きいね」
「たからもの、はいってるのかな?」
「恐らくはそうなんだろうな」
罠の可能性も十分に考えられるが、大きさから考えるとそれだけのものが入っているとも思える。
ルートヴィヒ・ユーベルヴェークが豪商から強奪しまくったって話だ。
被害総額の十数億ベルツは今現在も発見されていない。
恐らくはこの場所まで辿り着いた者もいないだろう。
さすがに胸が高まるが……。
箱にも罠と思われる仕掛けはないみたいだ。
開けた瞬間に矢が飛んでくる、なんてのはやめてくれよ……。
「……開けるぞ」
「……うん」
恐々と言葉を返すエルル。
フラヴィはブランシェの後ろに隠れていた。
警戒心を強めながら、俺はゆっくりと箱を開けた。
重々しい木の軋む音が周囲に響き、緊張感が高まる。
罠は、ないようだな。
「……わぁ!」
「これは――」
* *
こんこんと、静かに扉を叩く音が耳に届いた。
いつもの定期報告よりも随分と時間が早い。
何か別の用事だろうかと、初老の男性は思いながらも返事をした。
扉を開けた女性はうやうやしく頭を下げ、言葉にする。
「失礼いたします。
トーヤ様からのお手紙をお持ちしました」
「トーヤ殿からかの?
……ということは、見つけたのかのぅ」
「例の大盗賊の件ですか?」
「うむ。
中々に有力な手がかりが見つかったからの。
バルヒェットに向かったついでに探したんじゃろう」
その言葉に目を丸くしながら驚く女性職員。
それも当然だ。
200年間多くの冒険者や商人が捜し歩き、それでも見つからなかった財宝。
被害総額がとてつもない金額と言われる大盗賊が残したものなのだから。
財宝を手にすることに興味のない女性職員でも、その行方は気になるところだ。
用事が済んだ今も退室できずに足が止まるも、初老の男性がそれを咎めることはなかった。
丁寧にナイフで開封し、手紙を確認するローベルト。
その内容に胸が高まるクラリッサは静かに動向を見守った。
「…………そうか。
誰もが為し遂げなかった財宝をついに見つけたか」
思わず目を見開きながら右の手を口に当てるクラリッサ。
200年もの歳月を超えて、まさか日の目を見ることになるとは誰もが想像していなかったことだ。
ローベルトは驚く彼女にトーヤからの手紙を渡す。
人様の手紙に目を通すことをためらう彼女だが、好奇心に負けたようだ。
視線を手元に向け、クラリッサは書かれている内容を確認した。
さほど時間をかけず、とても優しい笑みがこぼれた。
「……ホッホ。
十数億ベルツのお宝か。
いや、それ以上の価値があったようじゃの。
これだから調査依頼はたまらないのよのぅ……」
窓から見える青空を見つめながら、誇らしげにトーヤ達の顔を思い起こす。
きっと彼らだからこそ見つけられた宝物だったのかもしれない。
そんなふうに世界はできている。
そう思えてならないローベルトだった。




