場合によっては
岩壁に現れた空洞。
その先は暗く、明かりなしでは進めないほどの闇が広がる。
人為的なものであることは確実だが、やはり罠の可能性を疑った。
これだけ手の込んだことをしているんだ。
本気で命を狙うような罠も考慮しなければならないが、俺にそういったものを回避するような知識は持ち合わせていない。
進むべきか、進まざるべきか。
俺ひとりであれば勝手もできるが、今は子供たちを連れている。
無茶はできないし、そんな背中を見せるつもりもない。
だが、強い好奇心が湧き立つように体を包んでいるのも事実だ。
この先にもしかしたらという気持ちも、ないわけじゃない。
「……さて、どうしたもんか」
「え? 行かないの?」
「罠の可能性もあるからな」
「……まさか、矢とか飛んでくるの?」
「場合によってはそれも考えられる。
しかも毒のおまけ付きとかな」
「……ぅぅ……」
青ざめるエルルだが、毒であれば対処ができるだろう。
幸い、今回の毒事件でキュアの性能が極端に上がっている。
それも毒だけじゃなく、火傷や麻痺、睡眠状態すら回復できるとスキルの詳細には書いてあった。
あれだけ多くの重軽傷者に魔法をかけたんだから、当然かもしれないが。
同じくヒールも回復性能が向上している。
どちらも英数字のⅢまで上がったことに思うところはあるが、それもユニークスキル習得速度上昇Ⅰが影響しているんだろう。
とはいえ、ヒールⅢは効果が増すだけらしいから、それほど頼ることはないと思うが。
これもすべて、高価で貴重なマナポーションをがぶがぶ飲みながら患者に使い続けていたことが、スキルを大きく上げる結果になったと予想している。
通常の冒険では英数字にすら変化しなかっただろうな。
だからといって油断はできない。
致死性の猛毒矢が飛んでくる可能性だって考えられるんだ。
この先に進まない選択肢もしっかりと考慮するべきだな。
「こういった場合、みんなの意見を聞こうと思う。
この先に進めば相応の危険が伴うからな。
俺の一存で勝手に進むことは避けるべきだ」
「……ぅぅ……あたしにはそんな大切なこと、決められないよ……」
「決めなくていいんだ。
ただ、どうしたいのかを伝えるだけで十分だよ」
「……そっか。
じゃあ、あたしはやっぱり進んでみたいな。
この先に何があるのか知りたいし、おじいちゃんにも報告できるでしょ?」
「ふらびいも、すすんでみたい。
すごくこわいけど、ぱーぱといっしょなら、がんばれる」
「わぅ? わぅわぅ?」
「すすまないの? って、ぶらんしぇいってる……。
くらいばしょ、すすむのこわくないの?」
「わぅ!」
どうやらブランシェは怖くないらしい。
元々フラヴィよりも目がいいからな。
夜行性だろうし、暗くても鮮明に見えているのか。
「それじゃあ進むが、何かあれば必ず伝えること。
でっぱりやスイッチがあっても勝手に押さないこと。
足元にもしっかり注意をして、紐なんかにも気をつけること」
「うん」
「わぅ!」
「……罠があるかもしれないもんね……」
「あぁ。
場合によってはかなり危険なものが飛んでくるかもしれないってことは、しっかりと頭に入れておいた方がいいと思う」
カンテラを前に出し、俺達はかなりゆっくりめに進む。
どうやら入り口も外からはまったく分からないようになっているみたいだ。
そんな巧妙に隠している場所に、罠がないとは思えない。
暗くて見えなかったが、螺旋状の階段が下へと続いているようだ。
こういった場所こそ気をつけるべきなんだろうな。
時間をかけ、ゆっくりと慎重に進む。
専門的な知識がない俺には、ほんの些細なことが命取りになりかねない。
わずかな変化も見逃さないように神経を張り巡らせながら下り続けると、目の前に壁が現れた。
「……あれ? 行き止まり?」
「いや、持ち手のついた鎖が右壁に下がってる」
若干ためらうが、警戒心をとぎらせないように引っ張る。
少し間を空けて重々しい音とともに、岩壁が下がっていった。
視界が広がり、俺はカンテラを前に出す。
どうやらその先は部屋のような空間になっているようだ。




