思ってたのと
「……思ってたのと、違うかも……」
そう言葉にしながら大岩を見上げるエルル。
いや、これは大岩ではなく、小さめの岩石地帯ではないだろうか。
見渡す限りに続くかのような岩の山々に、思わずため息がこぼれる。
「……おっきいね」
「俺の想像とも違うほど大きいが、恐らくはここが"マルグリットの巨岩"で間違いなさそうだな」
「これだけ広くちゃ、宝物が見つからなくてもしかたないよね」
確かにエルルの言うように、これだけ巨大で幅も広い岩山から目的のものを見つけ出すのは不可能に近い。
そもそも有力な手がかりがこれまで発見されていなかった以上、この場所に行き着くのは200年の間で俺たちだけかもしれないな。
周囲は平原が広がり、目印になるような目立ったものは見当たらない。
枯れた泉と思われるものも、この200年で何かしらの変化があってもおかしくないし、現にパッと見ではまったく分からないようになっていた。
しいて言えば窪みのような場所はあるが、そこかしこに点在しているようだ。
この中からたったひとつの正解を見つけるのは相当難しいと思えた。
「フェルザーの湖の真東で、古地図に描かれた泉はこの辺りになるはずだが」
「……うーん、まったく目印がないし、わかんないね……」
「まぁ200年も前の話だし、そう簡単に残るような目印として使ってないみたいだから、あとは月が道を示すのを待つか」
「じゃあ、ちょっと早めの晩ご飯にする?」
「わぅッ!?」
これでもかと瞳を輝かせた"はらぺこわんこ"。
すでに日は傾きつつあるが、ここまで歩き詰めだったし腹も減るか。
周囲に魔物や悪意は感じない。
これだけ見通しがいいと、月明かりもしっかりと照らすだろう。
雲も少ないみたいだし、これなら月が隠れることもないか。
テーブルと椅子を取り出し、調理の準備に入る。
春の風は緩やかだが、どこか涼しさを感じさせた。
こんな日は温かいシチューを食べるのもいいな。
エルルとフラヴィを乗せたブランシェが走り回るのを微笑ましく横目に見つつ、じっくりと煮込んであるビーフシチューをインベントリから取り出した。
寸胴ごと入れてあるので、誰かがいる時は出せない料理のひとつだな。
このスキルがなければ食事をする度に一から作らないといけないが、しっかりと煮込んであるとろとろ牛肉のシチューがいつでもどこでも食べられるのは非常にありがたい。
マジックバッグがあれば寸胴くらいは入れられるが、温度を一定に保てない。
いつでも温かいものを保存するならアーティファクト級の魔導具を手に入れる必要があるが、随分と深く迷宮を潜らなければ手に入らないらしいので、まだこの子たちを連れては行けないか。
迷宮都市までまだまだ遠いし、それまでに基礎的な技術は学ばせたいところだ。
幸い実戦なら日本と違っていくらでも経験を積める。
ここでなら道場で学ぶよりも遙かに早く身につくだろう。
気がつくと、俺の周りにみんな集まっていた。
いい香りに釣られてやってきたんだろうな。
頬を緩ませながら、俺は笑顔の子供たちを席に着かせた。




