いとも簡単に
ルーナの出身をふたりは知っている。
だからこそプロの諜報活動員として超優秀なのも納得できる。
彼女は生まれながらにそういった教育を受けているのだからそれも当たり前だ。
しかし、トーヤは違う。
どうみても優男にしかふたりには見えなかった。
なのに諜報活動を専門にしている彼女の、それも非公式とはいえランクSの実力を持つルーナの絶った気配に気がついたという。
これはただただ驚くべきことだった。
だが、話はそれだけでは終わらない。
そんな程度ですらないと彼女は続けた。
「アタシがいた場所は、トーヤっちからは完全な死角だった。
それも犯人探しをしてただけで、彼を監視したわけじゃない。
……なのに彼は、いとも簡単にアタシに気づいたんすよ。
それも170メートルは優に離れた場所にいるアタシを。
……あれは並の冒険者なんかじゃないっすね。
気配で警告されるなんて、"里"にいた頃ぶりっすよ……」
「……警告?
なんてされたの?」
「あくまでも気配でだけっすけど、あれを翻訳するとこうっすかね。
"お前が何者かは知らんが、ウチの娘に手を出すなら斬られる覚悟をしろ"。
特定の誰かにピンポイントで気配を送りつけてくる技術もそうっすけど、あの距離を死角でも気づかれたことに驚きを通り越して恐怖すら感じるっす。
……まるでお師匠様を相手にしてるみたいだったっすね……。
ありゃゼッタイに勝てない強者っす!」
「……お前がそれほどまでに言う相手なのか、トーヤ殿は……」
「あ、勘違いしちゃだめっすよ?
アタシはこれでも1対1ならランクSの全員に勝てる自負はあるっす!」
「それでもトーヤさんには勝てないほどの力の差を感じると?」
「……そうっすね。
本気で彼と敵対したら、たぶん一瞬で両断されるっす。
それも斬られたことすら分からずに終わらせられるっすね」
「……冗談じゃ……ないんだな?」
「冗談だとして笑えるっすか?」
「……笑えねぇな」
ごくりと喉を鳴らすローランだが、にぱっと表情を戻したルーナは話を続けた。
「まぁ、だいじょうぶっす!
彼はこちらが敵対行動を取らなければ、襲ってくることは絶対にないっす!」
「……その言い方は気になるが、ルーナの同郷の者か?」
「確かに黒髪黒目は東方の出身者に多いっすけど、彼は違うと思うっす。
っていうか、それ以上詮索はしない方が身のためっすよ?」
「そんなに危険な子には見えなかったけれど……」
「普通に接していれば問題ないっすね。
ただ、彼は我慢強いように思えて、沸点が限りなく低い場所があるっす。
それさえ踏まなければ基本的にいい子だと思うっすよ」
「沸点の低い場所……。
そういや、犯人確保の際もかなり憤ってたらしいな」
「相手が武術の心得がない一般人だから、ぼこぼこにされる程度で済んだっす。
正直、彼の強さがあれば、マルティカイネン家だろうとひとりで潰せるんじゃないっすかねぇ」
さらりと凄いことを言うルーナにふたりは引いていた。




