向かうまでの間を
そんなことを考えていると、エルルは気になったことをレナーテに訊ねた。
「そういえば、この町の教会ってどこにあるんですか?」
「教会はどこの町も外れに置かれていると思いますよ。
墓地もありますし、静かな場所の方が眠られている方には良い環境ですから」
「……そっか。
騒がしかったら、亡くなった方が安心して眠れないですもんね」
「そうですね、私もそう思っています。
……誤解されがちですが、墓地とは死者が眠る怖い場所なのではなく、ましてや死者の世界と通じているような場所では決してありません。
心穏やかに天界へ向かうまでの間を過ごすための神聖な場所なんです。
夜は月明かりに照らされて、とても穏やかな時間が流れているんですよ」
「冒険者などが町の外で朽ちるとアンデッドとして動き出すと聞いたことがあるんですが、町の中ではそういったことはないんでしょうか?」
どちらかと言えばそっちの方がイメージが湧きやすいのは、ロクでもないホラー映画を知っているからなのかもしれないが。
それでも死者がいる場所に悪霊が住み着くなんてのは、よくありそうな話だ。
かなり不躾な質問だが、彼女は笑顔で答えてくれた。
本物のアンデッドがはびこる世界では、そう聞かれることも多いのだろうか?
「一説によると、町の外には女神様のご加護が届かないと言われてます。
もちろん墓地でのアンデッド対策はしているのですが、あくまでも対策であって根本的な防止にはなっていないと私には思えるんです。
それでも墓地にアンデッドが出たと聞かないのは、やはり女神ステファニア様のご加護あってのものだと思えてなりません」
亡くなった方を入れる棺をアンデッドに効果のある木にしたり、聖水をかけてお清めをしたり、司祭がお祈りの言葉を遺族やなくなった方、女神に捧げたりする。
そういった一般的な対策程度しかしていないそうだが、それでも墓地にアンデッドが出たという話はこれまで聞いたことがないらしい。
それ故に神聖な場所と教えられているのかもしれないな。
遠出中に亡くなった仲間を手厚く弔った場合も同様で、滅多なことがなければ不死者として蘇ったりはしないらしい。
それは神官や修道女じゃなくとも可能なようで、そういったこともしっかりと知識として学んでいる者が一般的な冒険者と呼ばれるようだ。
やはりその場に残った想いをどれだけ生者が汲んであげるか。
もしかしたらそこに何か大きな差があるのかもしれないと思う反面、野ざらしに手向けもせず放置されたらゾンビにだってなるだろうとも思えてしまう。
俺も世界を歩く以上、しっかりとその作法を教えてもらったが、願うことなら生涯使うことのないようにしたいもんだ。
ちなみにアンデッドに効果のある木は、文字通りダメージを多く与えることのできるもので安価な上に加工もしやすく、おまけに軽いという優れものなのだとか。
こんな世界だからこそ、聖なる樹から作られた棺のみを使用しているのかとも思ったが、どうやら違うようだ。
まぁ、怪しげな商人やうさんくさい修道女が嘘を並べて"壷"やら"聖具"やらを売っていた事件も多発していた時期があったらしいが、世界中の全ギルドと教会が動き、現在では撲滅したらしい。
現在はそういった詐欺師は見つかっていないのはいいことだな。
……裏世界の方じゃ多そうだが、あまり考えないようにしよう……。




