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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第八章 オ・ブ・デュ・デジール
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迷惑な話よね

「……ほんと、迷惑な話よね」

「その通りだな」


 人もまばらな路地を、俺達は4人で歩く。

 結局、ほぼ飲まず喰わずで事態の収拾にあたった。


 やはりキュアを使える者が少なかったのは大きかったと言えるだろう。

 この周囲に毒を持つ動物や魔物は非常に少なく、薬師が売ってる解毒薬で事が足りるためにキュアを覚えている冒険者は非常に少ないとシャンタルが話していた。


 彼女達もこの町を拠点に活動しているわけではないらしい。

 たまたま依頼で立ち寄り、しばらく休息がてらにのんびりしていた矢先だった。

 さすがに見て見ぬ振りはできずに協力をしたが、まさかこれほどイラつく犯人と対話をするとは思っていなかったと二人は答えた。


 あれを対話と言うのかは置いとくとして、厄介な相手だったのは間違いない。

 俺も道場でそれなりに多くの門下生と関わってきたが、ああいったタイプと出遭ったことがないためかその対処法もまるで分からず、怒りに任せて行動してしまった。


 子供たちが見ている以上、あの時のような態度は改めなければならない。

 しかし、怒りを抑えきれなかったのもしかたないと思えるほどの相手だった。

 それでも感情を冷静に保ちながら対処できるように心がけるべきだな。


 俺もまだまだ精進が足りないのは分かっているつもりだ。

 何よりも経験が少ないし、現状に甘んじることなく鍛えていこう。



 人前で温かな食事を出せなかったこともあり、いちばん後ろを歩くブランシェの足取りは非常に重い。

 体調が悪いわけじゃないが、それでも目に見えてしょんぼりとしたこの子には後でたくさん美味いものをご馳走してあげないといけないな。


 残念ながらギルドマスターおすすめの"白羊の泉亭"は現在閉店している。

 クリスタに続き、父親であるクリストフにも事情聴取が行われているころか。

 憲兵と共に詰所へと向かう彼女の表情はとても暗く、まるで自分が事態を引き起こした主犯だと思っているようにも見えたが、さすがにそれはないと憲兵隊長であるエゴンは俺に言ってくれた。


 たしかに事の発端となった出来事ではあったが、フラれた程度で井戸に毒を投げ込まれちゃたまったもんじゃない。

 どう考えてもクリスタに罪はなく、付き添いのクリストフは彼女を落ち着かせるために同行してもらうだけだと話し、エゴンたち憲兵隊は詰所に戻っていった。


 "草原のゆりかご"は通常通り営業しているようだ。

 ヘルミーネも毒水にやられていたが、お客様を放ったまま自分だけ休むわけにはいきませんと、彼女は覇気のある表情で答えた。


 しかし、そんなはずはない。

 "白羊の泉亭"で真っ先に苦しみ悶えたエトムントは、現在も床に伏せている。

 魔法効果はあったが、それでも体力がごっそり減ったようだと人伝に聞いた。

 どう考えても無理しているのは目に見えてるが、それが彼女の覚悟なんだろう。

 そういった非常に強い瞳の輝きをした彼女を、俺は止めることができなかった。


 毒については薬師たちが解析中らしいが、正直なところ期待はできないそうだ。

 そもそもこの町にいる薬師が構える店にはそういった設備もなければ、毒の知識にも詳しいわけではないらしい。


 あまり必要とされていない毒知識よりも、やはり瞬時に回復するという魔法薬製造に力を注ぐのも別に不思議ではないが、たとえ専門的な知識と設備があっても解析結果が出るにはかなりの時間がかかる場合もあるようで、どちらにしても俺達がこのバルヒェットを離れるまでに知ることはないだろうな。


 おぞましい事件は収束に向かっているが、それでも何も思わないわけではない。

 あれだけの惨事を目の当たりにして、何も感じないやつがいるとも思えないが。

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