猛烈な異常性
止まることなくベラベラと暴言が飛び出してくる男に、猛烈な異常性を感じた。
こういった人間を日本じゃ精神鑑定するんだろうな。
残念ながらこの異世界ではそんなものはなさそうだが。
あとは牢屋にぶち込んで檻から出さないようにすればいいんだろうけど、まさかとは思うがそう簡単に出てくることはないんだよな?
ちらりとエゴンへ視線を向けるも、それをわかっているかのように頷いた。
激しくカサンドルが罵声を浴びせる姿も、見下したシャンタルがつまらなそうに男へ向けて氷点下の雑言を並べる姿も、子供達の情操教育には良くない。
そんな事態となるのを早々に判断したエルルは、フラヴィとブランシェを広場に連れ出してくれていた。
被害者たちに綺麗な水を配る笑顔の3人の姿に、これほど安堵したことはない。
年齢相応には思えない対応力を見せたが、それよりも心から嬉しく思えた。
男の悪態にほとほと呆れ、疲れたふたりはこめかみを押さえる。
何を言ってもまったく伝わらない男に根負けしたのかもしれない。
一頻りやり取りを終えたころ、クリスタは今にも泣き出してしまいそうな震える声で男へ言葉にした。
「あなたの気持ちは"愛"なんかじゃありません。
そんなものは、ただのひとりよがりな独占欲です。
それすらも理解できないあなたには、罪を償うことすらもできないでしょう。
ですからどうか、お願いします。
もう二度と、私達の町に入らないでください。
おぞましく歪んだ感情を持つあなたを、私は心の底から軽蔑します」
ぽかんと呆ける男に、哀れみさえ思えた。
恐らく、今なにが起きているのかですら判断できないんじゃないだろうか。
手の空いた憲兵達が男を連行するも、たった一度の謝罪すら男からはなかった。
だらしなく歩く男の背中を見送りながら、エゴンはどこか心配そうに話した。
「……あいつの罪は計り知れないほど重く、当分は審議が続くだろうな。
最低でも30年は出られないはずだが、心情を言えば、生涯檻の中で過ごして欲しいもんだよ」
そんな彼に俺は訊ねる。
この町にあの男が戻ってくる可能性を。
まさかとは思うが"恩赦"なんてものが与えられた日には、この町に住まう全員が戦々恐々とすることになる。
報復を恐れて、この町から人が激減する事態にまで発展するかもしれない。
それを彼も十分に理解しているのだろう。
はっきりとした口調で答えた。
「それはありえない。
これだけのことをしたんだ。
他の町へも入れなくなるはずだよ。
いや、この国にあいつの居場所はない」
「まぁ、他国で遭う可能性はあると思うけど、それでもアタシはもうあんなのと遭いたくないな」
「あらカサンドル、私はむしろ偶然再会して報復したいのだけれど?」
怖いことをさらりと言葉にする。
実際に報復なんてしないのは分かってるが、どこかこの人の言葉は本心から言ってそうで、まったく笑えないんだよな……。
バルヒェットの住民を恐怖に陥れた毒物事件は、一応の収束に向かう。
しかし後に詳細を知ったこの町すべての住民や訪れた冒険者、商人たちに不安を与えた今回の一件は、長年に渡り語り継がれるほどの忌まわしい出来事となった。
飲食店関係者や町の有志から憲兵とは別の治安組織が結成され、町を巡回する自警隊が発足される切欠となるが、それはまた別の話である。




