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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第二章 後悔しないのか
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慣れちゃいけないもの

 端的に言えば、収穫はあった。

 盗賊どもは宝と思われるものをかなり溜め込んでいたみたいだ。

 その中でもわりと高価そうな宝石やら金貨やらが、乱雑に置かれていた。


 それらだけじゃなく鉱石や薬瓶ようなものまであったが、これらに関してはあまりいい値段では売れないと教えてくれた。

 商人の物だとしても、盗賊団の拠点に置かれた薬を飲む気にはならないからな。


 高値になるレア鉱石もあるらしいが、ここにあるものは鉄鉱石やら銅といった一般的なものみたいだ。

 実際に売れなくはないが、買い叩かれるだけだとディートリヒは話した。

 金や銀の延べ棒もあったが、残念ながら日本とは違って安値になる。


 この世界で金や銀は豊富に採掘できる。

 日常的に使われる食器は木製のものが主流だが、銀食器はそれほど高くない。

 激安をうたう飲食店以外は、ほどんと銀素材のものを使っているそうだ。


 鉱石の類も、希少なもの以外はいい値段で売れない。

 元々盗品として扱われることもあるが、大規模な転売をさせないためらしい。

 基本的に鉱山から採掘したもの以外の取引を世界各国が制限しているようで、正規のルートで入手したものでなければ買い叩かれるのが一般的なのだそうだ。

 他国に鉱石を大量に流さないため、制限しているのかもしれないな。


 まぁ、裏ではいくらでも鉱石は通常に近い値段で買取してるのだが、そういった連中は非合法の組織と何らかの繋がりがあると言われているので関わらない方がいいぞと彼は続けた。


 テーブルの上に散らばっている金貨。

 地面に落ちっぱなしの光景に苛立ちを覚える。

 これも俺が日本人だから感じていることなのかもしれないな。


 金を粗末にすると金に嫌われるって言葉を知らないのかよ、あの連中は。

 下に置いてある包みも、中身は硬貨かもしれない。

 いったいどれだけ溜め込んでるんだ……。



 だが、それを遙かに超える衝撃的なものが、その奥に存在していた。


 見るだけでおぞましさと怒りが込み上げてくる鉄格子。

 中には誰もいなかったことが、かえって苛立ちをつのらせる。

 拷問器具と思われるものが転がり、むせ返るような血の臭いが立ち込める。


 ……本当に……最悪な連中だ。


 あのふざけた男は言っていた。

 "シケやがるあの商人ども"、と。


 ここにそういった人はいない。誰も。

 ……なら、どこに――


「落ち着け、トーヤ」


 ぽんと頭に手を乗せられ、意識をこちらへ戻す。

 彼だけじゃなく、3人も俺を心配そうに見つめていた。

 どうやら感情が顔にまで出ていたようだ。


 頭から手を離したディートリヒは、穏やかな声色で話した。


「お前の気持ちは分かるつもりだ。

 でもな、俺達はあいつらを捕まえたんだ。

 今後出ただろう被害者をゼロにした。そう考えろ。

 後ろを見るなとは言わない。とても大切なことだからな。

 それでも前を見ろ。物事を悪く捉えすぎるな」


 染み入るように彼の心が伝わる。

 

 彼らが生きる、残酷で冷徹な世界。

 厳しいと言えるこんな場所で、俺は生きていけるのか?


 ……いや、これはきっと、世界のせいじゃない。

 そういった感性を持つ輩がいるからこんなことになる。


 覚悟はしていたつもりだ。

 でも、まだ足りないんだな。


 瞳を閉じ、心を鎮める。

 ゆっくりとまぶたを開け、広がる景色にそれでも怒りが込み上げる。


「落ち着いたか?」

「はい。ありがとうございます」

「いいさ。俺も最初はそうだったからな。

 いや、これはきっと慣れちゃいけないもの、なんだろうな」


 とても寂しそうな瞳で鉄格子を見つめるディートリヒ。

 彼もまた、俺と同じ道を歩いて来たのだろう。


 少しだけ先を行く先輩に、心からの感謝をした。


「さてと。

 冷静に考えれば、こいつは使えるな。

 これで憲兵隊を呼ぶってこともできるぞ」

「だな。ついでに縛り上げたまま突っ込んどこうぜ」

「賛成です。それと外のふたりもここに入れましょう」

「すみませんが、私はここに残って祈りを捧げさせて下さい」

「んじゃ、俺とライナーも残るか。残党が襲ってくるかもしれないしな」

「分かった。それじゃトーヤ、行くぞ」

「はい」


 その場に残る彼らを背にして、俺は感謝する。

 一時でもこの場所から離れさせてくれたことに。


 フランツの気持ちが嬉しかった。

 外の空気を吸って来いと言ってくれている。

 言葉にしなくてもそれを理解できた。


 彼に聞こえないように、俺は言葉にする。

 ディートリヒはそんな俺を優しい瞳で見つめ、思わず視線を逸らしてしまった。

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