鑑定結果は
取り乱しながらも倒れこんだ男性に近寄る女性。
その表情は焦りを通り越して発狂しそうなほどだった。
あまりのことに店内はどよめきと戸惑いの気配であふれる。
「全員この店を出ずに、その場で待っててくれ」
その言葉に驚きながらも動く気配のない客に安堵する。
ここでパニックにでもなれば、店の外に出て行ってしまう。
そうなればさらに面倒なことになりかねない。
俺は倒れた男性に近づき、スキルを使った。
鑑定結果は黒。
残念ながら、店内にいる人たちと同じだと思われた。
効くかどうかはわからないが、今も苦しむ男性にキュアをかける。
これでダメなら薬を買いに行くしかなくなる。
しかし、その心配は杞憂に終わりそうだ。
血色が良くなったように見えると、そのまま眠りに落ちたようだ。
黙って見つめていた女性店員は強めの口調で訊ねてきた。
「ど、どういうことでしょうか!?」
「……顔色が良くなったな。
どうやらキュアが効いたみたいだ」
効果が強いものを取り込んだのか、それとも彼自身の免疫力の差なのか。
医者でもない俺に判断できることではないが、治療行為は可能みたいだ。
俺は立ち上がり、不安気な様子でこちらを見つめていた客へ話した。
「全員、冷静に聞いてくれ。
店内の飲食物に毒が混入されている。
毒の影響はこの男を見れば想像できたと思うが、気分が悪くなった者を優先して全員にキュアをかけるから、そのつもりで動かずに待機しててくれ」
俺の言い方も少し悪かったみたいだな。
これじゃ全員毒に侵されてると言っているようなものだ。
内心では俺も相当焦っているのか。
もう少し思慮深く行動しなければならないんだが、料理に毒が混入されるなんて事態、想定もしていなかったことだ。
ここに焦るなって方が無茶だといえるんじゃないだろうか。
だが俺の言葉に驚いたのは客と店員だけじゃなかったようだ。
厨房からそれを聞きつけ、店主と思われる男性がすっ飛んできた。
中々の強持てだが、おたまを持ったエプロン姿に笑みがこぼれそうになる。
「おいおいおい!
変な言いがかりはやめてくれ!
俺はそんなことしねぇよ!」
「まともな料理を作れるあんたが犯人だとは最初から思っていない。
それに毒が混入された経緯よりも、まずは治療が最優先だ。
原因を究明するのは、そのあとでもいいだろう?」
「……ま、まぁ、確かにそうだが……」
「この中にキュアが使える者がいれば、手伝ってもらいたいが?」
周りを見回すが、どうやらいないようだ。
冒険者でもなければ覚えることもない魔法だ。
しかたないと諦めるしかないか。
顔色の悪い客から優先し、感染した全員にキュアをかけ始めた。