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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第八章 オ・ブ・デュ・デジール
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よくない

 正直なところあまりいいことではないし、必要以上の危険は避けるべきだが、何も行動せずに町で暮らすのはごめんだ。

 そんなことで元の世界に帰れるわけもないはずだからな。


 特に大きな目的でもないが、迷宮都市にも向かいたい。

 ディートリヒ達との約束もあるし、それをないがしろにはできない。


 ……問題の連中とは違う人物に襲われる可能性も捨てきれないが……。


 まったく。

 あの人はいったい何を考えてるんだ。

 あんなに行動が読めない人と、これまで出会ったことがない。

 不思議な魅力と言えば確かにそうなんだが、なんか違う感覚なんだよな。

 こういうのも天然って言うんだろうか……。


「お待たせしましたー!

 まずは季節のサラダ盛り合わせと、マレナのブロウデとパンになりまーす!

 さすがに人数分を一度には持てませんので、もう少々お待ちくださいねー!」


 テーブルの中央にサラダを置き、まずは小さな子からと判断したんだろう。

 フラヴィの前にブロウデを用意した店員だが、ぞくりと冷たい気配が襲った。


 なんだ、これは……。

 何か妙な胸騒ぎがする。

 ……心が、ざわついている?


 まさかと思いながらも俺は鑑定スキルを使い、確信にいたった。


「フラヴィ、食べちゃダメだ」

「……うん」


 どうやらフラヴィも気づいていたようだ。

 気配か、それとも香りかはわからないが、いきなり口をつける子だったら大変なことになっていた。


 いや、香りってことはないな。

 もしそうならブランシェが真っ先に気づいてるはずだ。

 無臭のものとか、どんだけタチが悪いんだよ……。


「……トーヤ、これって……」

「エルルもわかるのか?」

「……ううん、わかんない。

 でもなんか、よくない(・・・・)気がした……」


 ブランシェも鋭い瞳で料理を睨んでいた。

 ……可愛らしい顔だから、まったく凄みがないのもこの子の魅力なのかもしれないが、そんなことを考えてる場合でもない。

 周囲を注視してみたが、どうやら事態はまずい方向へ進んでいるようだ。


 遅効性か?

 それとも微弱なものなのか?


 周囲の気配から、それらを見て楽しむような不快なものは感じなかった。

 となれば可能性はふたつ思い当たるが、そのひとつは彼女の様子から消えた。

 彼女が巧みに演技をしても、それを察することができる俺には通用しない。

 どんなに隠そうとも、ほんのわずかな揺らぎを感じられるからな。


 あとは残る可能性になる。

 しかし、ある意味ではこっちの方が厄介だな。


 他の料理や小皿を取りに戻ろうとする店員を呼び止めて訊ねた。


「すまないが、これを作った料理人のところに案内してもらえないか?」

「な、何か不手際がありましたか!?」


 涙目になる女性に申し訳なく思うが、ことは一刻を争うかもしれない。


「いや、そうじゃない。

 だが少々問題があって、それを店主に報告したい」

「わ、わかりました。

 そ、それではこちらにどうぞ」

「――がッ!?」


 ゴブレットの落ちた音が聞こえると同時に、楽しそうに話をしながら食事をしていた男性が苦しみ出し、椅子から転げるように倒れ込んだ。

 向かい合っていた女性の叫び声が響き渡り、店内が騒然とする。


「……遅かったか」

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