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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第八章 オ・ブ・デュ・デジール
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まったくわかんない

 おすすめの食事ができるということだが、店内は空席が目立っていた。

 町に到着したのも遅かったし、ギルドや宿の手配を考えれば食事時を外れるのも当然なんだが。


 今はだいたい14時くらいだろうか。

 この世界には時計もあるが、そのほとんどは教会に置かれているらしい。

 思えばデルプフェルトにいる時も、時間を知らせる鐘が鳴っていたな。


 まぁ、正確な腹時計を持つ子がいるから不便でもないんだが。

 せっかくの旅行も、時計を持ってちゃ台無しだって言う人もいるくらいだ。

 売っていたとしても持ち歩く必要はないだろうな。


「いらっしゃいませー!

 空いているお席にどうぞー!」


 元気な女性の声が店内に響き渡る。

 エルルに任せて席を選び、座って待ちながら先ほどの店員に視線を向けた。


 笑顔が眩しい人で、俺よりも少し年下くらいだろうか。

 濃いめの茶色い髪を綺麗に後ろでまとめた女性だ。

 不思議と銀のトレイを持つ姿がとても良く似合ってるように思えるが、板についてるってことなんだろうな。


 とはいえ、広い店内に客が6名ほどか。

 宿泊客じゃなくて常連っぽい落ち着きがあるな。

 時間も時間だし静かでいいが、どこか寂しさも感じる。


「わふわふっわふっ」

「そうだね、ふらびぃも、おなかぺこぺこ」

「あたしもお腹が鳴りそうだよ、トーヤぁ……」

「わかったわかった」


 俺は右手を挙げ、先ほどの女性を呼んだ。


「お待たせしましたー!

 ご注文はお決まりでしょうか!?」


 笑顔が眩しい看板娘だが、若干俺の苦手なタイプか。

 元気なのはいいが、少しだけ落ち着いた対応をして欲しいところだ。


 さて、何にするかと言われても、メニューらしきものはないな。

 表にも看板は置かれていなかったし、何でも注文通りに作れるとは思えない。

 それをするには大量の食材が必要になるから、インベントリでも持ってなければ不可能だ。

 この店に来る客は、いつもどうやって注文しているんだろうか。


 やはり、こう聞くしかないか。


「おすすめはあるか?」

「本日のおすすめは、マレナのブロウデとシュカンピのブザラです!

 お飲み物はニワトコのジュースがおすすめですね!」


 思いのほか、まともな答えが返ってきた。

 ギルドマスターおすすめの店だけあって、これならしっかりとした料理が食べられそうだと期待してしまう。


「じゃあブロウデとブザラにパン、ニワトコのジュースを。

 ブロウデをメインに、サラダも料理に合わせて5人分お願いする。

 下にいるこの子にはシュカンピの殻を取ってもらえると助かる。

 2人前の料理はこの子に出して欲しい」

「かしこまりましたー!

 それでは少々お待ち下さいねー!」


 恐らくは大丈夫だと思うが、念のため殻を外してもらった。

 まぁ、ばりばりと美味そうに食べるブランシェも想像できるが、何かあったら大変だし、もう少し大人になるまで硬いものは様子を見た方がいいかもしれないな。


 笑顔で答えて厨房に向かう女性の後姿を目で追っていたエルルは、ゆっくりとこちらに視線を戻しながら話した。


「……トーヤとお姉さんが何を話しているのか、まったくわかんない……」

「あぁ、そうだったな。

 簡単に説明するとマレナはマスのことだ。

 身がサーモンピンクの魚で、バターやオリーブオイルで調理しても美味いんだ。

 ブロウデは魚とトマトの煮込み料理で、白ワインとオリーブオイル、ハーブやガーリックで魚介類を煮込んだものがブザラだ。

 シュカンピはアカザエビ、いやフェルザーの湖は淡水だからテナガエビだな。

 ジュースの方は"ニワトコ"って木になる実を飲み物にしたものだ」

「……うん、聞いてもよくわかんなかったけど、美味しそうなお料理ってことだけはわかった!」


 そのきょとんとした顔なら、そう返ってくると思ったよ。


 くぅぅと可愛らしい音が下から聞こえ、料理の話をしたのは良くなかったかと考えながらも、注文したものが運ばれてくるまでの間、俺達は今後の話を少しすることにした。

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