季節ごとに
フィリーナの言っていた通り、とても綺麗な部屋を利用できるようだ。
だがまさか、部屋の真ん中に絨毯が敷かれているとは思っていなかった。
優しく淡い水色の壁で囲われ、天井は白で統一された綺麗な部屋だ。
目の色を変えたブランシェが真っ先に部屋へ入り、匂いを確認するように絨毯へ鼻を近づけてぺたりと座り込む姿はまさにわんこそのものに見えた。
お気に入りの場所のようにも見えるが、寝る時は俺のところに来るんだろうな。
自然と頬を緩ませながら、俺は視線をベッドの方へと向けた。
ボックスシーツと枕カバーがライトグレー色で、淡いクリーム色の枕カバーとベッドスローは欧米スタイルを連想する。
いや、ここはヨーロッパ文化を思い起こさせる場所だし、こういったものが使われても不思議じゃないが、前に泊まった宿はここと比べるとすごくシンプルな作りだったな。
なるほど、これならギルドマスターがお勧めするのも納得だ。
はっきり言って、センスがいいとしか言えないような部屋だった。
正直、俺には到底思いつかないような、春の色で全体をまとめていた。
ひとり用であろうとしっかりコーディネートされてるこの部屋は、季節ごとに色々と変えているんだろうな。
本格的なホテルに泊まる気分にもなるが、もしかしたらこの世界でもこういった配色は当たり前で使われているのか?
いや、これは店主の感性によるものが大きいんだろうな、きっと。
「ねね、トーヤトーヤ!
このベッドの足元にかけてある、クリーム色の横に長い布ってなぁに?」
「それはベッドスローって呼ばれるもので、靴のまま横になれるようになってる」
「なるほど?
これを敷くことで、ベッドが汚れないようにしてる、のかな?」
「そうだ。
俺の世界じゃ魔法は存在しないからな。
こういったのが当たり前に用意されていて、シーツや枕カバーとは別に洗えるようになってるんだよ。
まぁ、ウォッシュがあれば、それでこと足りるんだがな」
「魔法がないと洗い物は大変そうだね、トーヤの世界は」
洗濯機があるから、それほど苦労はしていないかもしれない。
それでも手間はかかるし、ホテルなんかじゃシーツを変えるだけでも重労働だろうから、そういった職についている人は大変だと思うが。
窓から見える景色を確かめに行くと、正面には通り抜けられる道が続いているようで見通しがとても良く、圧迫感をまるで感じなかった。
そういったところも融通してもらえたんだろうか。
フラヴィと一緒にベッドへ横になるエルルは、まったりした表情で訊ねた。
「素敵なお部屋も借りられたし、ご飯にする?」
「そうだな、随分待たせてるから早速行こうか?」
「うんっ」
「わふっ」
この宿には隣接された飲食店がある。
ギルドマスターが紹介してくれた店もそこだ。
ほとんどは常連か、この宿を利用した人が食べに来るらしい。
味の保証はされているが、若干の不安を感じさせる世界だ。
どんな料理を出されるのかは行かないとわからないか。
受付に戻った俺は、部屋の鍵を店主に一時返した。
これは外出しているのかを確認する意味があるとディートリヒは話していた。
この世界には冒険者が頻繁に町と外を行き来するからな。
いるのかいないのかわからないと困る宿も多いってことだろう。
隣で食事をすると話すと、店主からも美味しいですからぜひにと勧められた。
その屈託のない笑顔から察すると期待できそうだが、さて、どうなることやら。




