中々の厄介事に
手紙の内容を読み進めるギルドマスターは、徐々に重い気配をその身にまとう。
そうさせることが書き記されているのは間違いなく、これから訊ねようとするものはそれ以外の何ものでもない。
小さく息をついた彼女は立ち上がり、ソファーに座らせた俺達の元へ向かう。
「あなた達、中々の厄介事に巻き込まれてるみたいね」
「話はどこまで?」
「ほぼ全容が見えたくらいかしら」
しっかりと伝わるように書いてくれたのだろう。
ローベルトさんに感謝をしていると、彼女は対面に座り話し始めた。
「さて、遅れてしまったけれど、まずは自己紹介からね。
私がバルヒェット冒険者ギルドマスターを勤めているフィリーネよ。
トーヤさんが手にした指輪についても、そのおおよそは把握しました。
結論から言いますと、それに関しての情報は当ギルドに入ってきていません。
恐らくはあなたが想像している通りのことになるかもしれませんね」
「……そうですか」
指輪の持ち主は秘密裏に探している可能性が高まった。
まだ断定するには早いが、指輪がなくなったことに気付かないはずもない。
それはつまり、なくなったと知った上で行動しているということだ。
「ですが、この町でのことなら我々も力をお貸しできます。
件の持ち主がトーヤさんに接触してきた場合、ギルドは仲介役を努めます。
それがたとえ他国の大貴族であろうと、この国にいる以上はこの国の法が適応されますので、いかに権力を持とうともそれを振りかざした程度でこの国の法が覆らないことだけは憶えておいてください。
……それがトーヤさんたちの助けになるかもしれませんから」
つまりは力になれなくて申し訳ない、という意味なんだろう。
だがそれだけでも俺には十分だった。
「その気持ちだけでも心が救われます。
元々手にしたのは俺ですから、俺自身が解決するべきだと腹を決めています。
ギルドが仲介してくれることや、権力には屈しないと仰っていただけただけで十分です」
「……本当にごめんなさい、力になれなくて。
もちろん情報が入り次第連絡するようにしますが、滞在期間は短いのかしら?」
「所用もありますので、数日は滞在する可能性があります。
といっても、まずはこの子が泊まれる宿探しからなんですけどね」
視線をブランシェに向けると長い話になると判断しているのか、すでに眠る体勢でくつろいでいた。
腹が減ってると言っていたのに、どうやらこの子は早熟のようだ。
体格もそうだが、精神面でもフラヴィを超えているみたいだな。
……それはそれで寂しい限りだが。
「それなら力になれるわ。
わんこの魔物でも泊まれる宿と食事ができるおすすめのお店を紹介できます」
「それは助かります。
これから探そうか、受付で聞こうと思っていましたので」
「うふふ、どっちも期待していいと思うわ。
とっても綺麗なお部屋と、美味しいお食事ができるお店だから。
お食事の方は、私も主人と時々食べに行ってるくらい美味しいの」
詳しく聞くと、どうやらその店はここからそれほど離れていないようだ。
とはいえ、中央からは少し外れた店なので、わりと静かな場所なのだとか。
「ゆっくりとお食事をするなら、中央にある有名店よりもおすすめよ。
ここのお料理は中々のお味だし、きっと気に入ってもらえると思うわ」
「ありがとうございます。
早速行ってみようと思います」
「それと、出立の前に一度ここに立ち寄ってくださるかしら?
新しい情報が入ってるかもしれないし、使いを送っても入れ違いになる可能性もあるから」
「わかりました、ありがとうございます。
それではこれで失礼します」
「ええ。
情報提供に感謝するわ」
立ち上がる俺に目が覚めたのか、尻尾をぶんぶんと振りながらブランシェも起き上がった。
待ちに待った食事だと思っているのだろうが、まずは宿からだな。
しょんぼりとする様子が目に浮かぶが、もう少しだけ我慢してもらおう。
再度お礼を告げて、俺達は退室した。




