そう単純ではない
デルプフェルト冒険者ギルドマスターからの依頼を提出した俺はその報酬金を受け取り、次に問題となる手紙を受付に見せたわけだが、そこで予定外の行動に出られてしまった。
当然、ギルド内にいる冒険者だけでなく、飲食している客からは視線が集まる。
できるだけ目立たないように行動したいところだが、連れているメンバーが幼女と少女に真っ白わんこだから、それも無理な話ではあるんだが。
しばらくの間、みんなで話をしていると、女性が戻ってきた。
先ほどの目を丸くした表情は落ち着きを見せているが、内心では未だ驚きを隠せないといったところか。
ギルドマスターに直接会える手はずになっているらしいし、それも当然だな。
「大変お待たせいたしました。
ご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
この言い方は、ギルドに依頼をしにきた人にもする一般的なものらしい。
詳しい話を別室でどうぞ、という意味になるが、今回は違う。
これに関しては周囲から注目を浴びることはなかった。
連れが連れだ。
依頼者だと思ったんだろう。
一度視線を向け、すぐにこちらを見なくなった。
問題の連中と思われるやつも、ここにはいないようだ。
強烈な視線や、あえて気配を消すような感覚はなかった。
本物の暗殺者なら目標を捕らえた瞬間に気配を抑えるようなやつはいないだろうが、そういった連中でも一般人とは明らかに違う気配をわずかでもまとっているはずだ。
やはり迷宮都市に向かっていると考えていいかもしれないな。
階段を上がりながらそんなことを考えていた。
「ぱーぱ、いつもありがとう」
「フラヴィはまだ小さいから、階段は大変だろ?」
「うん、すこしたいへん」
「ブランシェは大丈夫そうだな」
「わふっ」
「エルルくらいになれば安心して階段を歩かせられるんだが……」
「あたし、お姉さんだからね!」
胸を張って答えるエルルだが、フラヴィにとって階段は中々の曲者だ。
足が短いこともあって、1段上るだけでも苦労しているのが見えた。
無理して上らせることもないし、ギルドマスターの部屋はたいてい3階に造られているとローベルトは話していた。
2階は資料室や職員の休憩所なんかが用意されているらしい。
3階まで歩かせるわけにもいかないので、俺が抱きかかえているわけだな。
どうにも俺に抱えられると眠くなるらしいこの子は、すでに瞳をとろんとさせているが、それはそれで可愛いと思えた。
胸に寄せて何度か頭をなでるだけで確実に眠るだろうな。
寝つきがいいのか居心地がいいのか、それともその両方か。
思えば俺はこの子が生まれてからベッドにされているからな。
とても落ち着く場所と思ってくれているんだろう。
「こちらになります」
そう言葉にして扉をノックをする女性。
中から返事が聞こえ、失礼しますと告げて扉を開けた。
間取りは逆になってるが、たいてい同じような部屋になるんだろう。
執務机と書斎のような本棚、来客用のソファーが置かれていた。
ローベルトさん曰く、ふかふかのやつだ。
「ギルドマスターにお客様です」
「あら、珍しいわね。
どうぞお座りになってお待ち下さい。
案内ご苦労様、リリー。
通常業務に戻っていいわ」
「はい」
優しそうな瞳をした高齢の女性がこちらへ視線を向けて答えた。
役目を終えた職員は、失礼しますと一声かけて退室した。
彼女の声色から話のわかる人物だと察するが、ことはそう単純ではない。
職員から渡された手紙に目を通すと、眉間にしわが寄っていくのがここからでもはっきりと見えた。