こんなにも綺麗な町が
白を基調とした建物に、濃いオレンジ色の屋根。
しっかりと整えられた石畳に緩やかな曲線を描く道。
飾られた鉢植えに咲く綺麗な花に、がやがやと人々の賑やかな声。
デルプフェルトにいるような気持ちにもなる美しい町並み。
店の数や街道の広さはこちらが上みたいだが、行き交う人々の格好は変らない。
同じ国だから当たり前だろうけど、それほど大きな違いはないみたいだ。
しいて言うなら中央広場に置かれたのは噴水ではなく、立派な像ってくらいか。
ローブを着た、どこか勇ましく思える表情の凛々しい男性の石像。
雨ざらしだからか色あせてるが、それでも力強い風格を漂わせていた。
周囲には花壇とベンチが置かれ、のんびりとくつろぐ人が多かった。
さすがにイチャつくようなやつはいないようだが、デルプフェルトにも見かけなかったし、そういったことは恥ずかしい行為だと認識されているんだろうか。
バルヒェット。
23万人が暮らすと言われる、デルプフェルトよりも少しだけ大きな町だ。
ディートリヒたち曰く、この国の建造物に大きな違いはないらしい。
つまりこの美しい町並みがどこまでも続いている、ということだ。
その感性は、どうやらエルルも持ち合わせていたようだ。
「この国ってさ、こんなにも綺麗な町が続いてるのかな?」
「とってもきれいだね。
ふらびい、あんなおうちにすんでみたい」
指をさしたその家は、小さいながらも美しい花々で溢れていた。
小さな庭に家庭菜園が作られ、アスパラやエシャロット、苺が彩りを添える。
この子は自由に野菜や花を育ててみたいと思っているのかもしれない。
残念ながら固定した家を手に入れることは難しいが、日本ならすべて可能か。
家に帰るまでしばらくは我慢してもらうことになりそうだな。
町を歩いているだけで旅行している気分になる。
魔物はいても、どこか動物に通ずる行動原理を感じるし、獰猛な危険動物程度にしか思えない俺にとっては、あまり異世界だと認識できなくなってきてるな。
まぁ、魔法なんて便利なものが存在する時点で、地球じゃないことはわかるが。
「あれかな、ギルドって」
「わふわふわふ」
「なんて?」
「おなかすいたって」
「わふっ」
「あはは、ブランシェらしいね」
笑顔で話をする彼女達は仲のいい姉妹に見えるが、やはり俺と同じくエルルにはブランシェの言葉がわからないようだ。
魔物であるフラヴィにしか聞き取れないんだろうけど、これが不思議と襲いかかってくる魔物の言葉はわからないと言っていたな。
なんでもこの子には、ぎゃあぎゃあと耳障りな音に聞こえるらしい。
雑音のようなものも混じってるみたいだし、そもそも仲間にできる魔物ってのは存在しないのかもしれない。
卵を孵化させる方法は魔力を込めることだって話だし、そこが何か大きな影響を与えてるんだろうな。
ある種の意思疎通ができるような状態になっているんだろうか。
興味は尽きないが、こういったことはパティさんに聞いた方が早そうだな。
とはいっても彼女は帰国すると言って別れたし、会いに行かなければ教えてもらえそうもないが。
目の前に移るギルドの看板を見ながら、俺はそんなことを何となく考えていた。