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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
序章 少年は駆ける
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序章

真面目な小説風に書いてますが、斜め読みか飛ばしていただいても大丈夫です。

 忽然と、人がいなくなることがある。

 俗に"神隠し"と呼ばれる現象がそのひとつだ。


 当然、別の世界に呼ばれた、などと考える者はいない。


 "事実は小説よりも奇なり"

 そんな言葉があるが、現実は小説ではない。

 顛末を知ってしまえば、何てことはない答えがほとんどだ。


 いなくなった者の多くが人為的な誘拐や、偶発的な事故に巻き込まれただけ。

 もしくは、自らの意思で失踪しているのが真相なのではないだろうか。


 神隠しとは物の本によると、"人ではない何ものかが、こことは違う場所に連れ去った"などと書かれているが、それを確かめられた者はおらず、奇跡的とも言えるような帰還を果たした者がそんな体験談を語ることもない。


 大昔の人はこう言っていたそうだ。

 山の神様がお隠しになったんだ、と。


 しかし現在の日本において、それを肯定する者はいない。

 そもそも神と呼ばれる存在と邂逅した記録や記述もなければ、神の存在証明ですら未だ解き明かされていない現代において、"お隠しになった"という曖昧に聞こえてしまう言葉そのものに疑問を抱かずにはいられないのが、ごく一般的な日本人の思考なのではないだろうか。


 神を否定するわけではない。

 誰かが亡くなれば悼む気持ちや、故人に対し冥福を祈ること。

 これは日本人でなくとも、世界中の誰もが持ち合わせている尊いものだ。


 信心深くない者のみならず、いわゆる無神論者だと口にする者であったとしても、そういった想いや慈しみは誰もが持つものであることに違いはない。

 それがたとえ物心の付いたばかりの少年や少女であろうとも、見知らぬ大人達が口元をハンカチで押さえながら焼香を焚いている姿に何も思わないわけではない。


 だがそれはやはり、"神を信じている"、というものとは別のものだ。

 面と向かって会ったことのない存在、まして神の恩恵や恩寵(おんちょう)と呼ばれるものを肌で感じたことのない者にとって、肯定も否定もすることなく日々を神と深く関わらずに暮らしているのは、典型的とも言える日本人の感性を持っているからなのかもしれないが。

 現実に神が存在するのだとしても、人とは違う世界を生きるものが人を連れ去る理由もなければ、その崇高なるご意思を理解することも人にできはしないだろう。



 神隠しとは、異世界召喚と呼ばれるものと似ている。

 ある日突然、こことは違う別の世界に呼ばれることがあるという。


 勿論これは小説や映画、アニメやゲームなど作中での出来事に過ぎない。

 70年も前の有名な小説然り、何百万部も売り上げている現代の小説然り。

 それらは創作物として存在し、いつの時代も読み手の心を魅了し続けてきた。


 その場合の登場人物達は、元にいた世界でどう扱われるのだろうか。

 現実的な行方不明と判断され、膨大な時間と労力を使い捜索しても見つからなければ、誰かが言わずとも、この言葉がいつかは頭を過ぎるのではないだろうか。


 "神隠し"と。


 異世界に呼ばれたのだと言葉にする者よりも、遙かに多いかもしれない。

 だが、そういったことはすべて創作物の中だけの話になる。

 それが現実に起こりうると判断されることはない。


 それを証明した者がいない以上そうだと公言する者がいたとしても、与太話として世間からは冷ややかな視線を送られるだけだ。

 余程大変な目にあったのかもしれないと、同情されることもあるだろう。

 自らの肉体と精神で体験した者でなければ、その意見に同調することはない。


 たとえそれが真実であったとしても。

 たとえそれが創作物の中だけではなかったとしても。


 それを自らが体験した者でなければ、そんな話を誰も信じることはない。



 俗に"神隠し"と呼ばれる、忽然と人が失踪するようにいなくなる現象に巻き込まれた少年がそれを自覚できるはずもなく、運命の悪戯とも言える幸運とも不運とも言い難い事態に、創作物の中ではなく自らが体験することになるのを、制服に着替えるという朝のありふれた日常をごく自然に過ごす彼が理解するのは、もうしばらくの時間が必要となる。

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