巡り会えるといいね
がたことと揺れていた馬車が停止し、エッダさんに続き俺達も荷台から降りた。
町の入り口である馬車乗り場からもその活気が伝わるかのような賑やかさを肌で感じ、思わず頬が緩んでしまう。
ここしばらくは馬車での移動が続いていたからな。
多くの人の気配に元気をもらっているようにも思えた。
「それじゃあ、あたしは娘に会いに行くわね。
色々ありがとうトーヤちゃん、とっても楽しかったわ」
「あぁ、こちらも楽しかったよ」
「フラヴィちゃんもエルルちゃんも、ブランシェちゃんも元気でね」
「うんっ」
「さよなら、おばさん!」
「わふわふっ」
エッダさんはブランシェの頭をわしゃわしゃとなで、町の奥へと向かった。
この6日間でこの子達も随分懐いたが、そこは旅の連れ、別れはやってくる。
楽しそうに言葉にしていたみんなだが、やはり寂しいのだろう。
彼女の後姿をずっと見つめていた。
「そんじゃ、俺らは事務所に行ってくる」
「美味いメシありがとうな、トーヤ!」
「あぁ、ふたりも護衛ありがとう」
「それが仕事だが、そう言ってもらえんのはやっぱ嬉しいもんだな!」
「また機会があれば護衛するからな!」
素直に頼もしいと思えるふたりだった。
ここまで魔物と2度遭遇したが、彼らは持ち前の安定感からエッダさんにも恐怖心を感じさせることなく任務を遂行した。
彼らのような冒険者が護衛してくれるなら、旅の安全はかなり高くなる。
そんな熟練者達だった。
「それでは私も事務所に向かいます。
ご利用のみならず食事までご提供していただき、ありがとうございました」
「いや、みんな美味そうに食べてくれていたからそれで十分だ」
「そう言ってくださると心が救われます。
それでは失礼します」
軽くお辞儀をしながらティモは、ギレスとクレンクの3人でその場を離れた。
楽しそうに話をする3人は歳が近いこともあって、随分と仲良くなったようだ。
本来は事務職のティモとは今回初めて会ったようだが、馬が合うんだろうな。
明日にはまたデルプフェルトへ向かって乗合馬車を出すと言っていたな。
『お客がいれば、ですけどね』と彼は微妙な顔で話してたが、きっとギレスとクレンクも一緒にデルプフェルトへ戻るんだろう。
護衛依頼の達成には御者が出す証明書も必要になるらしい。
時間がかかるので、ギルドまで俺達と向かうことはできないようだ。
「さて、俺達はギルドだな」
「町の中央広場から見える東側の建物、だっけ?」
「そうらしいな。
まずは行ってみるか」
「うんっ。
のりあいばしゃ、たのしかったね」
「わふわふっ」
「次の町へも同じように移動するんでしょ?
またいい人達に巡り会えるといいね!」
「そうだな。
こういった出会いは歩いて移動したり、馬車を持ってちゃ体験できないからな。
貴重な経験をさせてもらえたのかもしれない」
面倒なやつが乗ってくる場合もあるが、大抵は話のわかる人ばかりだろう。
ある意味では馬車に命を預ける仲とも言えなくはないし、きっと見えない絆が生まれるんだろうな。
そんな不思議な体験ができたと思う一方で、旅行ツアーってのはこんなものなのかもしれないな、なんて思えてしまった。
こういう気持ちになるんなら、知らない人と旅を楽しむのも悪くない。
そんなふうに思えた、不思議な6日間の旅だった。