後悔をしないように
目が覚めると、3人がそばで寝ていることに気がついた。
胸にフラヴィ、左手にブランシェ、いつの間にかエルルまで俺のベッドにもぐりこんで、すやすやと静かな寝息を立てていた。
これならひとり部屋でもよかったな。
そう思いながらも頬を緩ませ、3人の頭を優しくなでた。
……あれは不思議な夢だったな。
日本なのに、日本じゃないようにも思えた。
いつもと同じ風景なのに、いつもとは別の安らぎを感じた。
本当に、不思議な夢だった。
空は徐々に白みはじめ、新しい日の朝を告げつつある。
小鳥のさえずりが耳に心地良く届き、俺の意識はしっかりとしたものになる。
もうすぐ俺達はこの町を離れる。
知り合いのできたこの場所を去ることになるのは寂しく思えるものなんだろうかと考えていたが、どうやら新しい町に向かえる高揚感の方が強いようだ。
それも、この子達がそばにいてくれるから孤独を感じないのかもしれないな。
ひとりで旅をしていれば、こんな気持ちになっていなかっただろう。
ただ淡々と、町から町へ移動していただけだったかもしれない。
そうならなかったことに俺は感謝をしなければいけないな。
……だが、不安も大きい。
これから訪れる厄介事は、俺が想像している以上に面倒なことになりかねない。
あらゆる不運を想定しつつ、今後は行動した方がいいんだろうか。
他国とはいえ、一国を裏で操ってる可能性を感じさせる連中に狙われかねない。
そうならないように動かなければ、悪意を持ってこの子達に牙を向くだろう。
それはつまるところ、俺の行動次第で今後訪れる不幸が決まる、ということだ。
俺にもっと力があれば。
そんな後悔をしないように強くならなければならない。
悪党だろうが、貴族だろうが、国だろうが。
悪意を向けるすべてに対し、はねのけるだけの強さを手に入れる必要がある。
覚悟を決めたころには、カーテンの隙間から優しい陽光が差し込んでいた。
さて、朝食は何を作ろうか。
昨日はがっつりだったし、朝はさっぱり系がいいな。
のそりと起き出した子達に微笑みながら、俺は朝の挨拶をする。
きっとこれからは日常になるだろう朝の挨拶を。
今日もいい天気になるだろう。
清々しい旅立ちになるかもしれない。
でもまずは、寝ぼけ眼のふたりの髪をとかそう。
* *
「よし、準備万端だな」
「お腹もいっぱい!
いよいよ隣の町に出発だね!」
「……ふらびい、ちょっとねむい……」
「馬車の中でならゆっくり眠れるぞ。
結構揺れると思うし、慣れるまで大変かもしれないが」
「……うん、がんばる……」
朝食後に眠くなるところもそっくりだな。
まぁ、馬車に揺られながらうたた寝するのもいいだろう。
「わぅ、わぅわぅ?」
「……ううん、だいじょうぶ。
がんばってあるく。
ありがと、ぶらんしぇ」
「わふわふっ」
本当に仲のいい姉妹みたいだな。
まぁ、辛そうなら俺がだっこすればいいだろう。
眠る子をわんこの背に乗せて歩く姿も可愛いな。
「それじゃ、一度カミラさんに挨拶をして、馬車乗り場に行くか」
「おー!」
「わふっ」
「……ふわぁ……」
エルルの言葉に右手を上げながらも大あくびをするフラヴィ。
左手で口元を隠す仕草も可愛いが、相当無理をしているようにも見えた。
* *
馬車乗り場へ向かう途中、フラヴィは船を漕いでいた。
「フラヴィ、おいで」
「……うん」
視線をフラヴィに合わせて両手を広げて言葉にすると、ぽふりと胸にもたれかかるように身を寄せた。
そのまま抱き上げて優しく頭をなでると、3度目ほどで眠りに就いた。
最近色んなことが起きすぎてるから、疲れが溜まってるんだろう。
ある意味ではこの子が一番、年齢相応なのかもしれない。
いや、年齢で言えば、まだ生まれたばかりになるのか。
「ふたりも疲れてないか?」
「わぅわぅっ」
「大丈夫だよ」
元気に答えるふたりと寝息を立てる子に頬を緩めながら、俺達は乗合馬車へと向かった。