そんな子達だからこそ
一心不乱に食べ続けるブランシェ。
よほど我慢させていたことに今更ながら気がついた。
申し訳なさと、あの状況じゃ仕方ないと思える気持ちが半々だが、それでもこの子達はまだ小さな子供だ。
大人の都合で振り回さないようにしないといけないな。
「おかわりも焼けたぞ。
ついでにケバブ風ソースを作ってみた。
焼きたてで熱いから気をつけてな」
鉄串から肉と野菜を取り分け、ブランシェ専用の皿に盛る。
そこへ甘めに作ったケバブ風のソースをかけた。
どんなに美味しいものでも同じ味じゃ飽きるから、いわゆる味変ってやつだな。
がっつがずに大人しく座って待っているこの子の頭をなでると、嬉しそうに目を細めながら尻尾を左右に大きく揺らした。
この子もそうだ。
上品さとは違うが、フラヴィと同じで手に持つ食べ物を奪い取ったりはしない。
魔物だろうと、しっかりと接すれば隷属なんてする必要はないんだ。
やはりこの世界は大きく間違えてる部分が多い気がする。
人の鍛え方だけじゃなく、魔物の育て方を含めて。
これまで多少なりともこの世界で経験を積んで、わかってきたことがある。
この世界の住人の思い込みの激しさが。
理解力のなさや、柔軟な考え方ができないとも言い換えられるかもしれない。
それが中世程度の文明力しかないのは体のいい言い訳になる。
レベルにも言えることだが、そのどれもが間違った認識をしている。
その世界に生まれ育つと見えなくなるものでもあるんだろうか。
「はぐっはぐっはぐっ」
美味しそうにおかわりを食べるブランシェを見ていると、魔物を使役する連中すら敵に思えてくる。
この子は魔物だが、隷属なんておぞましい言葉でこの子を縛るのは間違いだ。
それはどんな魔物であれ言えるはずだ。
最初から隷属の刻印なんてもので縛るから、逆に言うことを聞かなくなる。
魔物は動物ではない。
しっかりとした意思を持って行動する。
動物とは比べ物にならないほどの知能を有し、その力を俺達に貸してくれる。
そこに主従関係はあるかもしれないが、それは決して隷属なんておぞましいものではない。
この世界の住人は気づきも、いや、考えすらしないんだろう。
「……きっとパティさんみたいな人の方が、圧倒的に少ないんだろうな……」
「パティさん?
トーヤのお友達?」
首をかしげながらエルルは訊ねる。
丁度いい機会だし、今まで出逢ってきた人のことを話そうと思った。
盗賊や冒険者崩れだった連中もいたけど、俺はいい人達に出逢えていたんだ。
魔物に対する考え方や、この世界に存在するレベルの概念も伝えよう。
* *
エルルもフラヴィも、そしてブランシェもこちらを真剣に見つめながら俺の話を聞いてくれていた。
そんな子達だからこそ、話すべきだと思えたんだ。
この子達には物事を正しく判断できる人に育って欲しいから。
そういった願いを込めて俺は丁寧に話を続けた。
「どう思うか、どう感じるかはみんなの自由だよ。
でも、それでも俺は、みんなには優しい人になって欲しいと思ってる。
誰かを傷つけるように力を振りかざすことなく、誰かを護れるような強さをみんなには手に入れて欲しいんだ」
話に集中しすぎたか、肉が焦げつかないように鉄串を回転させる。
肉汁が滴り落ち、芳ばしい香りが立ち込めるが、ブランシェでさえも視線をそちらに向けることはなかった。




